マーケティング・シンカ論

5500円もするシャーペン、なぜ即完売? 三菱鉛筆「クルトガダイブ」の画期性2023年、話題になった「あれ」どうなった?(3/3 ページ)

» 2023年12月27日 08時30分 公開
[熊谷紗希ITmedia]
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5500円のシャープペンシル 誰が買うのか?

 クルトガダイブの技術力の高さは良く分かった。「ノックが集中力を妨げる」「自動で出るが書きづらい芯」といったこれまでなんとなく感じていた煩わしさを解消する画期的な商品で、2023年3月のレギュラー商品化後に即完売したのも頷ける。

 しかし、シャープペンシルを日常的に使うであろう中学〜高校生からすると、5500円はなかなか手が出しづらいのではないか。

 西村さんは「価格は他社でも3000円台など高価格帯商品が出てきているので、高すぎないラインだと思っています。メインターゲットは変わらず、中学〜高校生です。クルトガダイブは技術的な要素が強いシャープペンシルなので、メカニック好きな男子学生から強く支持されています」と話す。

 また、西村さんは「近年の生活様式の変化が影響している」とも分析している。数年前はたくさんペンを持っていることが人気だったが、現在はミニマルな方向にシフトしているようで、機能性が高いものやお気に入りを長く使う傾向にあるという。そういったニーズに合わせて機能性の変化や価格帯の変化が起こっているようだ。

 学生だけでなく、社会人にも需要が広がっているという。それでも学生がメインの購入層であることについて、西村さんは「社会人になると使うとしてもボールペンになるかと思います。そしてPC作業などがメインになるため、ボールペンを数時間使い続けるという場面はなかなかないかと。しかし学生は違います。授業中は基本的にシャープペンシルを握っています。一瞬使うのと長時間使うのではニーズが異なります。社会人の方にも使っていただいていますが、やはりボリューム層は機能で選んでいる学生になりますね」と話す。

 23年3月にレギュラー商品として展開を開始してからも品薄状態が続いている。常に需要が供給を上回っており、入荷した途端に棚から消えることもある。

 文房具に高い関心がない層からすると「書ければ何でも良くない?」と思うかもしれない。三菱鉛筆は「書けること」以上にシャープペンシルを進化させることで得られる競争優位性についてどう考えているのか。

 「筆記具としての価値だけで市場を取り続けていくのは難しいと思います。どうしても天井が来てしまう。そこでアナログ筆記の価値を振り返り、新しい企業理念として23年3月に『違いが、美しい。』を掲げました。本来われわれが提供してきた価値を、筆記用具ではない形だとしても取り組んでいきたいという意思表明です。新しい商品を出し、そこで得たニーズを踏まえて、また次の商品や価値を模索していくことを大事にしたいです」(西村さん)

 筆者は学生時代にクルトガを使っていた人間の一人だが、当時は技術力というより「くるくる回るのが楽しい」程度にしか考えていなかった。社会人になった今、クルトガから長らく離れていたが、愛用していた商品の進化を時代背景や生活様式に照らし合わせてみると意外な発見がありそうだ。年末年始の脳トレとして、昔の商品と最新商品を比べてみるのも楽しいかもしれない。

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