マーケティング・シンカ論

おすすめのビジネス書、人に聞くのはなぜ無意味? 複利を生む「読書術」を学ぶトライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(2/3 ページ)

» 2024年03月13日 08時30分 公開
[池田 紀行ITmedia]

「読むべき本」の選び方

 学習は書籍一択ですが、「世の中にはたくさんの本がありすぎて、読むべき本が分からない」という意見も理解できます。ここからは、私が本を選ぶ際に意識している2つの点と読書スピードを上げる方法を解説します。

1. 人に「おすすめの本」を聞かない

 「読むべき本の選び方」の1つ目は「おすすめの本を人に聞かないこと」です。前回の記事で推奨した44冊はいわば必修科目のようなものです。ここで言っているのはそれらが終わった後の応用科目と考えてください。

 本は「人と人の出会い」のようなものです。上司や部下、同僚、メンター、友人、恋人などで「人生を変えた出会い」を経験した人は少なくないでしょう。なぜ「その人」との出会いが人生を変えるほど大きなものになったのか。

 それは「タイミング」がドンピシャだったからです。どんな「運命的な出会いを果たした人」であっても、全く違うタイミングで出会っていたら、「運命的な出会い」にならなかった可能性は大きいはずなのです。

 本も同じです。あなたが仕事をする中で直面するさまざまな壁の存在が、その壁を乗り越えるために必要な「知識ニーズ」や「情報ニーズ」を形成します。その「ニーズ」は「あなた」が「いま」欲しているもので、隣の人が欲しているものとは違います。

 にもかかわらず、多くの人は他者に「おすすめ本」を尋ねてしまう。誰かの「おすすめ」はその人のニーズやタイミングに合致しただけのため、それがあなたにも刺さるとは限りません。

 ビジネスにおける読書は「楽しむため」ではなく、「自身の課題を解決するため」という明確な目的があります。頭が痛ければ頭痛薬を飲む。胃が痛ければ胃腸薬を飲む。薬は、自身の病気や症状に合ったものを飲みます。本も同じです。自身の課題に合ったものを読む。だから、人に「おすすめ」を尋ねるのは悪手なのです。

2. 大型書店に行く

 とはいえ、自身のニーズに最適な「読むべき本」を自力で選ぶのは簡単ではありません。では、どうしたらいいか。答えは大型書店にあります。2〜3時間の十分な時間を取って、できるだけ大きな書店に行ってください。

 理由は、大型書店の店頭にさえ行けば、情報を「受動的」に取得できるからです。本棚の前に立ち、数十冊、数百冊の表紙を見るだけで、あなたの手は必ず無意識に動きます(何冊かの本を手にとってパラパラめくりたくなります)。それが「あなた」が「いま」読むべき(可能性の高い)本です。

 大型書店の平積み本はすべからく評価が高く、買って損する本はかなり少数なはずです。

 「読むべき本」が分からない人は、大型書店に行く→直感に従って本を手に取る→パラパラ読む→買って読む→「読んでよかった」と「なんだかイマイチ」を繰り返してください。いつの間にか、誰かにおすすめ本を聞くことはなくなるでしょう。

読書スピードを上げるのは「事前準備」

 多くの人が知りたい情報は「読書スピードの上げ方」でしょう。効率的なインプットのためには、まず「本を読むスピード」を上げなければなりません。そこで想起されるのが「速読」です。私も20代の頃は読書スピードが早くなく、速読の練習をした一人でした。結果、無意味だったと断言します。

 読書、特にビジネス書は、自分の課題や分からないに向き合う作業です。書いてある内容を目から入れ、脳で意味を理解し、反芻、咀嚼、解釈していきます。その一連の作業を5〜10分で完結させられるはずがないと思いませんか。

 カリフォルニア大学は2016年、速読は不可能(飛ばし読みは有効)という論文を発表しました。読書の世界に魔法の杖はありません。「速読法を身に付ければ、読書スピードが劇的に上がる」という期待は捨ててください。

 20代のときに年間100万円分(≒約500冊)の本を読んでいた私が、速読に代わる再現可能な読書をプロセスに沿って紹介します。当たり前のことですが、取り組めていない人が多いようにも思います。

1. 読書前

 本を読み進める前に、必ず以下のポイントを押さえてください。

  • 読書の目的を決める(この本を読むことによって何が得たいのか、ゴールを設定する。これによってヒントや答えを探すように読むようになります)
  • 著者略歴を見てどんなバックボーンの人が書いたものなのかを把握する
  • 「はじめに」を読んで全体感を把握する
  • 「目次」を読んで全体の流れと論理構成を把握する
  • 「おわりに」を読んで読後感の想像を広げておく
  • 最初から最後まで、1ページ2〜3秒くらいでめくりながら、だいたいどんなことが書いてありそうか、全体の雰囲気を掴む

 ここまでがだいたい10〜15分くらいです。この読書前のひと作業が劇的に読書スピードを上げるポイントです。漠然と1ページ目から読み始めることはやめましょう。

2. 読書中

 読書中の行動としては、以下を意識的に実行しましょう。

  • 気になった箇所に赤ペンで線を引く(ページに付箋を貼るのは、どこに強く共感したのかが分かりづらいため避けましょう)
  • 感じたことがあれば、そのページの余白に赤ペンでメモをどんどん書く

 線を引く作業と書き込みでペンを持ち替えるのは手間なので、筆記用具は1本に絞ると効率的です。

3. 読書後

 読了後は、感想やメモをnoteなどにまとめると良いでしょう。言語化することで知識の粗熱が取れ、情報が染み込みます(アウトプット法は次回解説します)。


 いかがですか? 全て普通ことでしょう。世の中なんてそんなものです。甘い言葉には罠がある。基本に忠実に、愚直に読書道を極めるしかありません。

 ポイントは、本をきれいに残そうとしないことです。読書の目的は、本の内容をできる限り多く体内に吸収することです。琴線に触れたこと、気付き、疑問や調べてみようと思ったこと、自分なりの解釈や意見、今度実務で取り入れてみたいことなどをどんどん当該ページの余白に書き込んでいきましょう。メモ程度でも、書くことによって記憶の定着も良くなります。

 疑問や反論、自分の意見も書き込んでいくことが特に重要です。それこそが、読書という刺激によってあなたの体内で発電された最も重要な「思考が進化する変化点」そのものだからです。

 本をきれいに残そうとしないの地続きにある話ですが、メルカリで売る前提で読み進めるのもやめましょう。「読んだけど、ほとんど記憶に残っていない(=仕事のパフォーマンスが変わらない)」読書に成り下がります。

 ビジネス書は「仕事のパフォーマンスを向上させること」が目的です。そのためには、先述した点をどんどん書き込み、何度も行ったりきたりしながら思考のレベルを上げる必要があります。

 「書籍購入費の元を取る」とは、その読書によって生涯における仕事のパフォーマンスが何%か向上し、結果として数万や数十万円のリターンを得ることです。私は過去に1000万円分以上の本を読んでいますが、給与(≒報酬)として1億円以上のリターンを得ている実感があります。真に元を取りたいのなら、メルカリ転売は選択肢から抹消してください。

 速読法の最後に、不都合な真実をお伝えします。

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