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成長するマーケターは一度「知識に翻弄される」 突破口は実践の中にしかないトライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(2/2 ページ)

» 2024年04月03日 08時30分 公開
[池田 紀行ITmedia]
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実戦しない人間はフィードバックを得られない

 こんなことを聞かされると、トンネルに入るのが怖くなるかもしれません。ただし、トンネルに入り、他者からフィードバックをもらい改善を繰り返すことでしか、借り物の知識が使える知識として定着することはありません。そして「使う」以上に「フィードバックを得る」ことが何よりも重要です。

 当たり前ですが、あなたは自身の思考が100%正しいと考えて実戦するわけです。しかし、その9割が間違いなんてことは日常茶飯事です。何がどう違うのか、正しくはどうなのか、これらは他者のフィードバックによってしか明らかになりません。

 なので「とにかく実戦あるのみ!」は半分本当で半分は嘘なのです。実戦は大切ですが、振り返りをしない(フィードバックのない)実戦を何度繰り返しても、できていないことができるようにはなりません。そして冒頭で述べた通り、仕事とは成果を出す場ですから、何度も同じ失敗を繰り返す人に次のチャンスは回ってこないでしょう。

 実戦するのと同じくらいフィードバックをもらう。フィードバックをしてくれる上司や先輩がいない場合は、「どうすれば他者からのフィードバックが得られるか」をあらかじめ設計した上で実戦を重ねるようにしてください。「フィードバックが得られる環境をつくること」自体も実戦する上で重要な「仕事」と心得ましょう。

フィードバックしてくれる人に心からの感謝を

 フィードバックをするのは本当に大変な作業です。あなたよりスキルや経験が豊富な人が「一瞬いいですか?」「ここが分からなくて」「これで合っていますか?」に対し、何十回、何百回とフィードバックをくれる。

 書いた文章の編集・校正や、パワーポイントの修正指示なども大変ですが、何より大変なのはロジックの修正です。あなたが「正」と考えて設計したロジックが間違っていた場合、何をどのように考え、どんな(思考の)紆余曲折を経て現在のロジックにたどり着いたのか、道筋や思考プロセスを聞き出した上で修正を加えなければなりません。その作業にはかなりの時間を要します。

 さらに、フィードバックをする人が「なんでここでこう考えたの?」「こういう考え方はどう思う?」と、あなた自らが気付きを得られるように導いてくれるタイプだった場合、さらに時間的コストは大きくなります。

 フィードバックする側が「あーもう! 全然ダメ! あとはこっちでやっとくから」と巻き取ってしまうことは一番簡単ですが、それでは後輩が育ちません。だからあえて、(あなたよりも忙しいのに)フィードバックをする。こんな人の元で働くことができたら、それだけで成長が保証されていると言っても過言ではありません。

 「自分にはそんな上司や先輩なんていないよ!」「そんな人さえいれば自分も成長できるのに」と考えてしまった人、注意してください。そんな「あなたに献身的な上司や先輩」は、あなたの写し鏡でもあるのです。

 フィードバックはもらえて当然ではありません。上司も人間です。忙しい時間を割いてせっかくフィードバックをしているのに、感謝の念がない、否定的、反抗的、またはのれんに腕押し、次も同じ過ちをする部下や後輩に高い関与を持って接し続けてくれる人などいるはずがありません。「自分は上司や先輩に恵まれていない」と考えてしまいがちな人は、あなた自身に問題があるかもしれないことを覚えておいてください。

「矢面時間」を増やそう

 実戦は、何も企画や提案書作成だけではありません。社内外での会議も重要な実戦の場です。あなたは、どんなスタンスで会議に出席をしていますか? 頼れる上司や先輩が場を支配し、見事に会議を進行している姿を見ながら議事録を書き、一言も発言せずに会議が終わる。残念ながら、この会議であなたはほとんど成長していません。

 マーケティングの仕事は2つに大別されます。1つは調査や企画を(ある程度自分のペースで)じっくり考え、設計してドキュメント化する「静的な仕事」。もう1つは、社内外の会議でディスカッションをしながら状況や課題を整理したり、課題解決の施策の方向性を決めたりする「動的な仕事」です。どちらも大事ですが、後者の動的な仕事には「瞬発力」という特殊スキルが必要となります。

 たとえ多くの知識を持っていたとしても、1秒単位で状況が移り変わる動的な会議の場で戦えるかは瞬発力にかかっています。この瞬発力を上げる唯一の方法は「矢面時間」を増やすことです。

 例えば、客先で会議をし、宿題をもらって帰社して、会社で提案書や報告書を作成しているとしましょう。しかし、クライアント先でそれをプレゼンしない人間はどこか他人ゴトで仕事をしてしまいます。自分が提案するわけではないからです。そういう仕事は矢面時間には積算されません。

 しかし、「上司(や先輩)が風邪を引いた。明日のプレゼンはあなたがやってください」と言われた瞬間、自分ゴト化します。「やばい。どう話そう」「説明する順番を整理しておこう」「どんな質問が来ても答えられるように想定QAを用意しておかなきゃ……」。これが矢面時間です。

 後ろを振り返っても誰もいない。自分がやるんだ。というヒリヒリ感の中で、どれだけ目の前の仕事を自分ゴトとして捉え、取り組むか。あなたの矢面時間はどのくらい貯まっているでしょうか。

 とはいえ、上司や先輩がいる中で、明日からあなたが場を仕切ることは難しいかもしれません。実は、そんな状況でもすぐに取り組めることがあります。それは、質問をすることです。しかも、必ず最初にするのです。会議のアジェンダが終わり、最後に「何か質問ある人はいますか?」と振られたとき、多くの人はうつむいて目をそらします。そこであなたはすかさず手を挙げ、質問をするのです。

 最初は理解度が低いため的を射た質問ができないかもしれません。クライアント、上司、先輩から「こいつ、分かっていないな……」と厳しい目を向けられることも覚悟しなければなりません。しかしめげずに質問をしていくと、必ず精度が上がってきます。「お! いい質問だね!」と褒められる日がやってきます。

 その理由は、最後にいの一番に質問をすることを前提に会議に出席するようになるからです。質問を探しながら会議に出る。すると、あら不思議。今まで漫然と参加していた会議で「これはいつまでに誰がどのように進行するのだろう」「間に合うかな」「あちらにも確認しておいた方がよくないかな」「前にやってうまくいかなかった取り組みに似ているけど大丈夫かな」「こういうやり方の方がよくないかな」と泉のように次々と疑問が出てくるようになります。これが矢面時間の累積による自分ゴト化の効果です。この作業を継続すると実戦力が磨かれ、上司や先輩と状況認識レベルが合ってきます。

 いつも必ず最初に質問することには副次効果があります。1つ目は、周囲から「あいつはいつも必ず最初に質問する」「しっかり自分の頭で考えることができる奴だ」「仕事に前向きに取り組んでいる」と一目置かれることです。

 2つ目は、プレゼンテーターからかわいがられることです。これも会議を主導する側になると分かりますが、進行者が一番求めているのは質問です。それなのに、大半の会議は「何か質問はありますか?」→(シ〜ン……)→「では今日はこれで終わります」となってしまう。そこにあなたが現れる。的は射ていないが毎回質問をする。そして徐々に質問の精度が上がってくる。いつしかあなたは、存在感のあるかわいい存在になり、目をかけてもらえるようになります。

 ただ質問をするだけです。最初に「お前、分かっていないな〜」という冷たい評価をされる以上のリスクはありません。にもかかわらず、この効果は絶大です。ローリスク・ハイリターンです。自身が成長できるだけでなく、上司や先輩からかわいがられる存在になる。そして「お前は頑張っているから、きっちりフィードバックしてやろう」と、社内外に自分に目をかけてくれる味方が増やせます。

 やりたい人は1万人、やる人は100人、やり続ける人は1人です。やり始めてください。そしてやり続けてください。それだけで1万人に1人の人材になれます。

欠損状態や渇きとともに書店に行く

 たくさんの本を読んでインプットする。noteやXでアウトプットする。実戦する。ここまで来たら、あなたは必ず「以前とは違う渇き」を感じているはずです。アウトプットや実戦を通して、いまの自分に足りていないものの解像度が“爆上がり”したのです。

 その状態で、また大型書店に行ってください。以前は「何を読んだらいいのだろう……」と書棚の前でウロウロしていたのに、今回はいろいろな本があなためがけて光を発しているはずです。自分がインプットすべき情報を自分自身で見つけ出せる状態にたどり着いた証拠です。

 そこからまた学ぶ。そして次のトンネルに入って出口に向かう。マーケターのキャリアとは、この連続です。

 次回は、インプットしたこと、アウトプットしたこと、実戦で経験したことの学習効果にレバレッジをかける生活習慣術について解説します。

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著者紹介:株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田 紀行

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1973年生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業300社以上のマーケティング支援実績を持つ。宣伝会議マーケティング実践講座 池田紀行専門コース、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 年間講演回数は50回以上で、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)のほか、『売上の地図』(日経BP)、『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)など著書・共著書多数。X(旧Twitter):@ikedanoriyuki

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