マーケティング・シンカ論

「マーケ課題の優先順位を付けられない」「社内でフィードバックをもらえない」 マーケターの悩みQ&A12選トライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(3/3 ページ)

» 2024年04月17日 08時30分 公開
[池田 紀行ITmedia]
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社内コミュニケーションの悩み1

Q: 社内でマーケティングの重要性やマーケティング思考を浸透させるにはどうしたらいいでしょうか。

A: まず、マーケティングの重要性やマーケティング思考が浸透しない会社でマーケティングを普及・啓蒙していこうとするその心意気が素晴らしいです。ぜひ頑張ってください!

 マーケティングの重要性が浸透していない要因には、以下などさまざまなものがあります。

  • マーケティングをやらずとも売り上げが伸びてきた
  • 営業が強い(強すぎる)
  • 製品(技術)志向が強く「良いものを作れば売れる」意識が根強い

 いずれにせよ、そういった文化は企業文化、組織文化として深く根付いているため、意識改革をするのは容易ではありません。

 そういった環境で「勉強会」を開いても、のれんに腕押し。反応は薄いと思います。ではどうするか。「マーケティングは儲(もう)かる」と訴求するのです。マーケティングを重視しない会社は、「マーケティングなんてやったって儲からない」と思っているから、やらないのです。

 マーケティングを頑張ると儲かる。売り上げが増える。コストが下がる。利益が上がる。良いこと尽くしです。それを理論ではなく事例で示すのです。できれば同業他社が望ましいですが、いなければ他業界の事例でも構いません。マーケティングで売り上げが上がった事例。コストが下がった(効率化できた)事例。新しい成長市場を手に入れた事例などを具体で示し、興味を引くのです。

 「え? これほんと? どうやったの?」と食いついてくれば儲けもの。「これ実はですね……」と布教を開始します。順番は、事例で興味喚起→ロジックで納得力向上→(したたかに準備していた)当社だったら……という具体案提示の順番が吉です。

社内コミュニケーションの悩み2

Q: (言い方は悪いですが)自身より勉強していない相手に対して、無知の知であることを怒らせずに、伝えたいことを伝えるにはどのようなコミュニケーションをするべきでしょうか。

A: この方がクライアントなのか、上司なのか、先輩なのか、同僚なのかによって対応は異なりますが、まずは絶対に「こんなことも知らないの?」という顔をしてはいけません。自分は「顔には出ないタイプだから大丈夫」と思っていても、オーラとして出てしまうものです。最大限の注意を払って臨みましょう。

 その上で、「この場合は◯◯じゃないですか」「なんでそう思うんですか?」とこちらの意見をぶつけるのではなく、「◯◯という考え方もできると思うんですが、なぜそう考えたのか、お考えをお聞かせください」「ちなみに、その考え方だと△△はどう捉えたら良いですか?」などと徐々に相手が自身の盲点に気付かせていくのも吉です。

 一方で、自身のロジックが破綻していることに気付き、いい気分になる人はいません。ですから「ロジックの穴を突く」「知識不足に気付かせる」アプローチはあまり(というか、かなり)おすすめできません。

 私は「伝えたいことが伝わらない」とき、その要因は2割がロジック(IQ)で、8割は感情(EQ)だと思っています。優秀な人は伝え方が「柔らかい」。決して迎合も忖度もしていないのに、柔らかく「伝えたいことが、伝わるように、伝えられる」。ここが大事だと思います。

 ちなみに、こういう方は「理論的裏付け」の話をしても全く刺さらないため、上記とも関連しますが、事例攻撃が有効です。こちらの記事で「事例学習は危険」と言っておきながら矛盾しているように感じるかもしれませんが、事例は使いようです。

 理論は抽象ですが、事例は具体です。すでに他社が実戦し成功したファクトですから、誰も批判できません。それでも「この事例は他業界だから」「うちとは企業(予算)規模が違いすぎる」「歴史が違う」「状況が違う」「時代が違う」「文化が違う」「社長が違う」と食い下がる人は何をどのように言っても変わらない方ですから、諦めるが吉です。

実務(実戦)の悩み1

Q: 地方や中小企業の予算がない会社のマーケティング担当です。私一人で業務を行っているのですが、このように予算が非常に限られる場合は、何を優先すべきなのでしょうか。

A: 予算が限られている中小・中堅・スタートアップ企業が優先すべきは、ローワーファネル対応、つまり購入に最も近いホットな顧客群に資源を集中することです。決して、広く浅く認知を取りに行く施策に手を出してはなりません。資源が少ない企業における理想的なファネルの形は、逆三角形ではなく、限りなくドラム缶に近い形です。ローワーファネル対応が完全に終わったら(収穫が次第に減ってきたら)少しずつ上に広げていくのが吉です。

 ただし、競合も同じことを考えています。ですので、業界や状況によってはコンテンツマーケティングなど、中長期的にじわじわ効果を発揮する施策に資源を投下するのも一手です。特にB2B業界はコンテンツマーケティングと相性が良いですから、競争優位のあるノウハウを有する会社なのであれば、大いに検討する余地はあると思います。

実務(実戦)の悩み2

Q: マーケティング課題がどれも重要に見えてしまって、優先順位がうまく付けられません。この場合、どのような考え方を身につけるべきでしょうか。

A: 拙著『売上の地図』(日経BP)や、『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)でも解説していますが、全てのマーケティング活動は、必ず「売り上げ」というゴールに向かっています。

 しかし、それらは全てが一直線で売り上げに向かっているのではなく、構造的につながっています(AとBがCに、DとEがFに、CとFが売り上げに、といった具合です)。優先順位が付けられないのは、全ての課題が並列に並んでいるからです。しかしそれらは必ず「因果構造」になっています。因果とは「入力→出力」ですから、並列ではありません。この構造化に取り組んでいくと、どこがボトルネックになっているのか、見えてくるはずです。

 課題は箇条書きではなく、因果構造にする。さらに正確に言えば、箇条書きで書き出して、それを因果構造にする。ぜひやってみてください。

実務(実戦)の悩み3

Q: 現象として起こっている問題は、見たり報告があったりして理解しているのですが、「根本の問題」が分からないことがあります。そのため真に解決すべきことが何かを分かっていないまま、対症療法的な動きをしてしまうことがあります。真の課題を見つけられるようになるためには、どうすればよいでしょうか。

A: 「実践の悩み2」の質問とも関連しますが、因果構造を見つけ出しましょう。

 現場で起こる事象(結果)には必ず原因があります。そして、その因果は多くの場合、(A→B→Cのように)独立ではなく「玉突き」で起こっています。そしてその玉突きは(A→B→CとDのように)「構造的に」起こります。これを(まずは仮説を作って)特定していくのです。

 やり方はオーソドックスです。見えた現象(結果)について、その原因を「なぜなぜ」と複数回繰り返すのです。Aが起こった。Bのせいだ。ではなぜBが起こったのか。Cのせいだ。ではなぜCが起こったのか。DとFのせいだ……と繰り返すと、おぼろげなら因果構造が見えてくるはずです。

 目の前の現象はさまざまな入力による結果(出力)ですから、直接改善することは(ほとんどの場合)できません。海に流れ着く一本の川から有害物質が流れている。その原因を確かめるためには、川上に上るしかありません。複数の川が合流したり、分岐して流れる川の全体像を把握したりして、悪さをしている場所を特定するのです。

 楽な作業ではありませんが、手はそれしかありません。頑張ってください!


 全10回にわたってお送りしてきた「トライバルメディアハウスのマーケティングの学び方を学ぶ塾」、いかがだったでしょうか。マーケティングは、領域が広いだけでなく、一つ一つの奥が深いです。そのため闇雲(やみくも)に学習を始めてしまうと、自分が今、全体のどこを学んでいるのか、迷子になってしまいます。だからこそ、マーケティングを学ぶ前に、学び方を学んでもらう。これが本連載の趣旨でした。

 本連載の内容が皆さんのマーケティング学習の一助となり、これからの実務とキャリアの成功に貢献できたら、これ以上嬉しいことはありません。かくいう私も、まだまだ学びと成長の途上です。共に楽しく学びを深めてまいりましょう。お読みいただき、ありがとうございました。ご武運を!

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著者紹介:株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田 紀行

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1973年生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業300社以上のマーケティング支援実績を持つ。宣伝会議マーケティング実践講座 池田紀行専門コース、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 年間講演回数は50回以上で、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)のほか、『売上の地図』(日経BP)、『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)など著書・共著書多数。X(旧Twitter):@ikedanoriyuki

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