近年、「○○ハラスメント」という言葉が覚えきれないほど増殖していますが、最近は「ロジハラ」という言葉がビジネスの場で使われるようになっています。
ロジハラ(ロジカル・ハラスメント)とは、正論(ロジカル)を突き付けて相手を精神的に追い詰めることで、相手に嫌な思いをさせ、業務に支障が出るなどの状態になることを指します。特に上司の部下に対する指導方法においてパワハラの一種として問題視されています。
今回の記事では事例をもとに「ロジハラかロジハラでないかの分岐点」「ロジハラに陥りやすい人の特徴とロジハラにならないための対処法」「企業としてロジハラにどう対応するか」について解説します。
まずは1つ、事例を紹介します。
全国10カ所に営業拠点をもつ機械メーカーの甲社は、最も業績が低迷している大阪営業所のテコ入れのため、1年前本社で営業主任だったAさん(35歳、以下「A課長」)を新しい営業課長に据えました。
A課長は入社以来営業一筋でかなりのやり手。部下に対する指導は細やかで的を射ていることが多く、そのかいあって課の業績は徐々に回復しました。その反面、しつこく部下を精神的に追い詰めてしまうことが多く、A課長の就任後15人の部下のうち3人がメンタルヘルス不調で会社を辞めていきました。
3月上旬のこと。取引先の乙社からA課長宛てに「5月から月間の取引数量を従来の半分に減らしたい」との電話がありました。A課長は担当しているB主任(30歳)を呼び、問い詰めました。
A課長: 乙社との取引量が半分に減るのはどういうことだ?
B主任: えっ!本当ですか。
A課長: だから、どうして取引量が半分に減るのかと聞いてるんだが。
B主任: 私の推測ですが、1カ月前先方の仕入れ担当が変わりました。そのせいかと思います。
A課長: 仕入れ担当が変わってから1カ月間、相手の変化に気付かなかったとは……。一体何をしてたの?
B主任が謝ったが、A課長は何回も同じ話を蒸し返しては叱責を続けた。
A課長: それで、これからどう対処するつもり?
B主任: すぐに乙社の担当者に会って、取引量が半減する理由を聞いた上で、ニーズに合った商品を提案します。
A課長: 商品って……。どんな商品を提案する予定?
B主任: それは、相手の話を聞いてから考えます。
A課長: それじゃ遅いよ。今日、最低1つは提案してこないとダメだ。それでどんな商品を提案するのか今教えてくれ。
B主任: 頭の整理をしたいので、少し時間をください。
A課長: ただ考えたことを素直に話せばいいだけじゃないか。ほら、早く言って。
A課長に詰め寄られたB主任は、乙社との約束時間が迫っていることを理由になんとかその場を切り抜けました。乙社の担当者に聞いたところ、取引量を減らしたのは甲社と同じ部品を安く売る丙社が現れたからで、価格競争に負けてしまったことが理由でした。
B主任からの報告でそのことを知ったA課長は、現状を打破するために毎日B主任と長時間のマンツーマンミーティングを通じて課題を与え、自分の考えと違っていると「なぜそんなことしか思い付かないんだ」などと言い、どんどん追い詰めていきました。
1カ月後、A課長の勧めでB主任が提案した新製品を買ってもらえることになり、取引量は従来に戻りました。
しかし、A課長とのやりとりで精神的に疲れ果てたB主任は、C営業所長(以下「C所長」)に退職届を提出しました。C所長が理由を尋ねると、乙社の件のいきさつを説明し、「A課長の指導が厳しすぎて耐えられない。あれじゃパワハラです」と正直に答えました。
驚いたC所長は、すぐにA課長を呼んで実情を確認しましたが、A課長は「私はB主任が仕事で悩んでいたからアドバイスしたまでです。彼の業績は回復したしパワハラなんてとんでもない」と怒り出しました。
職場のパワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます。
上司が部下に対して正論を展開しながら教育、指導をすること自体は悪いことではありません。問題はそのやり方が業務上の適正な範囲かどうかなのです。
つまり、指摘内容が正論でも威圧的な態度を取っていたり、必要以上に延々と叱責しているなどの場合、その行為について業務上の必要性があると見なされず、パワハラ扱いになる恐れがあるのです。
甲社の例だと、A課長は正論に基づいた正しい指導を行ったので、部署全体の業績を向上させ、B主任のピンチを打破したと思っていますが、そのせいで精神的な苦痛を味わった社員が3人退職、B主任も退職届を提出しています。この状況からすると、A課長は部下に対してロジハラを働いていたと判断される可能性が高いでしょう。
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