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その接客フレーズ、本当に効果ある? 購買意欲を高める「最強の売り文句」とは令和の無駄学(1/3 ページ)

» 2024年09月06日 08時30分 公開

連載:令和の無駄学〜僕らにはもっと無駄が必要だ〜

合理的で効率化が求められる社会。どんどん便利になる社会。何不自由なく生きられる社会。しかし、それと逆行するように人々の幸福度は下がっている。

もっと豊かで人間らしい暮らしを得るには、時間的な余白や、一見どうでもいいような機能、生活必需品ではないものの購入など、いうなれば「無駄」が必要なのである。無駄こそ心にゆとりをもたらし、無駄こそ周囲へのやさしさにつながる。真の豊かさを求める上での最強の武器である「無駄」について、社会を解剖していく。

 世の中が加速度的に便利になる中で、効率は良くなったものの面白さが失われてしまった。だからこそ、今の時代には「無駄」が必要なのである! そんな考えのもと鼻息荒く始まった本コラム。今回テーマとして取り上げるのは「店員の声かけにおける効果」です。

 私たちは日常的に飲食店やアパレルショップなどで、店員さんの接客に触れ、「ご注文お決まりですか?」「何かお探しですか?」といった一言をかけられることが多々あります。

 しかし、これらの声かけは本当に顧客の購買意欲を高めているのでしょうか? 近年、特にアパレルショップなどでは「声をかけられたくない派」の人々が増えているように感じられます。

接客の声かけに意味はあるのか? 写真はイメージ(iStock)

 声かけ自体は、消費者の心理プロセスを表す「AIDMA(アイドマ)の法則」に従うと、売り上げにつながるという結果が関西大学社会学部の池内裕美教授(消費者心理)の研究で出ています(※)。 

 しかし、インターネットやデジタル技術の普及により、例えばユニクロなどのファストファッション店舗では、マネキンやポスターでコーディネートを示し、全てのサイズを棚に並べるなどして、店員が声をかける必要のないより効率的な運営方法を取り入れています。さらに、接客サービスがなく無人対応の飲食店も増えてきています。そのため、従来の声かけの必要性が薄れてきているのも事実です。

 徐々に接客の声かけが合理化されている中で、あえて声かけを行うことに意味はあるのか? 今回は、そんな疑問を探っていきたいと思います。

(※)参照:店員の声かけ怖い? 消費者心理の法則「崩れた」背景は/2019年1月11日、朝日新聞デジタル

「購買意欲が高まる」声かけの特徴とは?

 店員さんの声かけを分析するにあたって、アパレルショップで働くスタッフや飲食店での業務歴のある方に協力していただき、インタビューを実施しました。日常的によく耳にする店員さんのフレーズに焦点を当てて分析したところ、購買意欲が高まる言葉が持つ要素と、購買意欲を下げる言葉が持つ要素が、それぞれ見えてきました。

 まず購買意欲の高まる言葉が持つ要素として、「限定性」が挙げられます。

 著者が行ったインタビューで、購買率の高い声かけの例として「期間限定の商品です」「こちらセール価格になります」「この商品はコラボ商品です」などと、商品やサービスが限られていることを強調するフレーズが挙がりました。こういった、期間や個数に限りの意を示すことで、購入する予定のなかったものに対しても購買意欲を高めてもらうことができるようです。

 これは、希少性の原理に基づいており、人は手に入りにくいものや特定の条件下でしか得られないものに対して、より高い価値を感じる心理的傾向があります。その心理を働かせるために、こういった「限定性」の要素を含むフレーズを使うことは効果的なようです。

 また、限定性のある言葉をかけることで顧客に行動の緊急性を促す効果もあります。顧客に「今すぐ購入しなければならない」と感じさせ、瞬間的な購買意欲を引き出す力があります。このように、時間的な制約や数量的な制約を明確にすることで、顧客の購買行動を積極的に促進することができます。

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