――旭化成は女性社員の活用について、どのように対応しようとしていますか。
女性の登用で話題になる会社は非製造業が多く、製造業の場合は現場があるので比率そのものは、日本中の平均からすると低くなります。急に女性の比率を増やすことは難しいのですが、まずは現状は約3割にとどまっている採用の女性比率を高めて、女性の活躍を意識して育成をしていきます。
結婚して育児などに時間が必要になった時には、仕事との両立を支援する必要があります。その後の課題は「登用」になります。採用から登用までのパイプラインを作っていけば、自然と女性が生き生きと活躍できる会社になると思います。数字的な目標として、2030年までに女性管理職の比率を10%にしたいと考えています。継続的に増やしていく形を作り上げることが重要ですね。
――日ごろから会社経営をするにあたり、心掛けていることはありますか。
世の中の変化が速いので、その変化への対応力を身につけることが重要です。アセット(資産)を軽くして、変化に対応できるアジャイルな経営が求められています。
座右の銘としては「伝統は守るべからず、つくるべし」という恩師の言葉を自らに言い聞かせています。経営者になって分かったのですが、どうしても守ろうという姿勢になりがちです。次に何が起きるかを予想して、今のうちに手を付けておくことが大事です。2030年を展望しながら今やるべき変革をやる。そして将来後輩たちに「あの時、変革をやってもらって良かった」と言ってもらえるような経営をしたいと思います。
研究開発については、日本全体が危機的な状況だと思います。イノベーションを起こすためには構想力や執着心が必要で、ある意味“クレイジー”である必要があります。リチウムイオン電池の開発で2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰さん(名誉フェロー)は、ものすごい執着心を持って研究をされていました。良い意味でクレイジーな時間の使い方が必要なのですが、働き方改革の流れもあり、大企業だけでイノベーションを起こすのは極めて難しい環境になっています。
そこでCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を運営して、フレキシブルな時間の使い方をして、開発などに取り組んでいるスタートアップと提携して技術を花開かせる手伝いをする、オープンイノベーション的な発想が求められています。もう一つは、大企業の中には優秀な人材が多くいるので、自由に働けるような環境の法的整備、特区のようなものが必要ではないでしょうか。
以上がインタビュー内容だ。多角化経営を進めてきた旭化成が、過去の伝統と決別して、新時代に即応した経営路線を歩もうとしている。
印象に残ったのが「伝統を守らない」という工藤社長の座右の銘だ。言うは易い一方、実行は難しい。それだけに「重い言葉」に思えた。米国のように不採算部門があればすぐにカットできる経営環境ではない日本では、雇用を守りながら構造改革を進める必要がある。実行するのは簡単ではない。
これを次々とやってのけた工藤社長の力量は、成長軌道に入ろうとする旭化成にとって強い味方になりそうだ。EVへの逆風が強まる中、カナダに投資したセパレーター事業の行方が気になるものの、リスクを分散した慎重な投資方針にはうなずけるものもある。中長期的には健全な海外投資といえそうだ。
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