フジ・メディアHDの株を買う投資家の心理として、ベンチマークとなる不祥事が「TBSビデオ問題」の事例だろう。
1995年に発覚した「TBSビデオ問題」は、オウム真理教の問題をめぐり、同社のワイドショー番組のスタッフの行動がきっかけとなり、弁護士家族3人が殺害されるという放送局の信頼性に関わる重大な不祥事だった。
当時のニュースキャスターである筑紫哲也氏が「TBSは今日、死んだに等しいと思う」と述べた場面はテレビ史に残るカットとして覚えている者も少なくないだろう。
しかし、TBSは「死ななかった」。信頼を取り戻すため、経営基盤を立て直し放送事業を継続した。テレビの広告収益だけでなく、赤坂エリアの不動産事業が企業価値を下支えしたことも追い風となったことだろう。結果として、TBSは2024年3月期において過去最高益を更新するに至った。
事案の性質が異なるため単純比較はできないが、少なくとも3人の殺害という極めて重大な犯罪の機会を与えてしまったTBSですら、それが原因で取りつぶされることもなく、同社が持つ有形資産と安定した収益基盤によって存続可能性を高めたのだ。そんな過去のベンチマークがあるからこそ、投資家はフジ・メディアHDの株を安心すらして買っているのかもしれない。
万が一、今回の件がきっかけでフジ・メディアHDが事業継続できなくなるにしても、低いPBRで買った投資家は清算に伴う分配で利益を得る可能性が高い。どちらに転んでも「ここまできたら、株価はこれ以下に下がりようがない」状況にまで達したと見なされたのではないか。
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