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NEC吉崎CDOが語るブルーステラの展望 「GAFAに代わる日本型SIモデルを」

» 2025年03月11日 05時00分 公開
[中西享, 今野大一ITmedia]

 NECが、DXブランドの価値創造モデル「BluStellar」(ブルーステラ)を柱に、業績を拡大しようとしている。

 同社が2月27日に開催したメディア向けラウンドテーブルで、CDO(最高デジタル責任者)の吉崎敏文副社長は「NECの利益改善の大半はBluStellarによるもので、思った以上に浸透してきている」と説明。「これからはGAFAに代わる新しい日本型のSI(システムインテグレーション)価値モデルを提供したい」と述べ、BluStellarを中心に業績をさらに伸ばしたい考えを明らかにした。

吉崎敏文(よしざき・としぶみ)外資系IT企業を経て、2019年4月よりNECにて成長領域のデジタルビジネスおよび事業変革を担当。2021年4月よりデジタルビジネスプラットフォームユニット長 兼 執行役員常務(Corporate EVP)就任。2023年4月よりChief Digital Officer(CDO)就任。2024年4月より執行役 副社長(Corporate Senior Executive Vice President)CDO兼デジタルプラットフォームビジネスユニット長に就任

9000人を超すコンサル集団 オファリングから手法を変化

 吉崎CDOは現在、NECの顧客に新しいSI価値を提供する責任者として、BluStellar推進の先頭に立っている。

 「ハード、ソフト、サービスを含めて3万人近い社員で、システムインテグレーションをやろうとしている企業は世界に類を見ません。この3分野を一本化したのは森田CEOの判断によるものでした。この結果(売り上げ、業績ともに)追い風になっています。このモデルは単なるプラットフォームだけではなく、人間のスキルとAIの機能を加えたハイブリッド型なのが特徴です。これを必ず成功させたい」と強調した。

 NECはこのモデルを導入している企業数は明らかにしていないものの「BluStellarアカデミー」という教育プログラムは460社も売れており、企業の関心は高まってきているという。BluStellarは金融分野をはじめ幅広い業種に着実に浸透してきており、今後は自治体や製造業などにも広めていきたい方針だ。

 成功の理由として「これまでのハードとソフトとサービスをセットにして顧客に提案するオファリングという販売方法から、経営や業務の中で何を改善したいのか、顧客の課題を解決するコンサル起点での手法に変えることにより、必要とする新しい価値を提供できた。結果的に売り上げ増、収益アップにもつながっている」と指摘した。

 これを実現するための組織をどう構築していくか。NECは2015年に完全子会社化したアビームコンサルティング社のコンサルタントを含めると約9000人のコンサル集団がいることを明らかにした。「今後は、あらゆるところにAIを使うようになるので、2025年にはAIコンサルタントが1000人を超えることになり、アビームとのシナジーも利いてくる。これにより企業を全く新しい形でSI化することができる」と指摘。コンサルチームにAIの機能を付加することによって、さらなる成長を描く見通しだ。

 NEC傘下のアビームは大企業向け基幹システムであるSAPに強いコンサルタントを多く抱えており、NECのコンサルチームは他社にはない経験のあるコンサル集団になっているという。

2月27日に開催したメディア向けラウンドテーブルの様子

 さらに吉崎CDOは、他社にはない強みとして「中長期的な視点で開発研究をしている研究所と製品が一体化できているので、市場の変化に素早く対応できます。ハードとソフトを別々に売っていたのでは戦えません。今後は、AIとセキュリティに関して一貫した投資をしていきます」と指摘した。

 現状では「(NECの業績において)国内ITサービスに占めるBluStellarの利益は3割程度ですが、50%にチャレンジしたい」と述べ、業績面での貢献度合いが大きいことを明らかにした。その上で「まだ国内企業の伸びしろがあり、国内をベースにし、2026年度からは海外にフル展開していきたい」と強調。当面は国内を足固めしたうえで、海外にもBluStellar事業を広めたい意向を明らかにした。

 新しい技術として注目されている量子コンピュータについては「まだ安定性に問題があると思いますが、(実用化すれば)劇的に変わると思います。しかし、全てのものが量子に置き換わるわけではないので、しばらくはいまのシステムと併存する。それよりも気付かないうちに進んでいるのがAGI(人工汎用知能)の世界ではないでしょうか」と述べた。 

 吉崎CDOは、かつては米国を代表するコンピュータメーカーのIBMからシステム改革を担う責任者としてNECにスカウトされてきた人物だ。それだけに、縦型組織が幅を利かせている日本企業の欠点とグローバル企業の優れている点を熟知している。両方の違いを理解した上でDXやIT、AIを使った業務の見直しが進まない日本企業に、BluStellarの価値を理解させられるか。まさに吉崎CDOの腕の見せ所だ。

 現状では、オファリングという従来の手法から、顧客の経営課題解決を重視するコンサル起点の売り方が功を奏しているようで、吉崎CDOのリーダーシップが真価を発揮している。この流れがAI活用について、痒いところに手が届かずに困っている日本企業の救世主となるのかどうかが注目される。

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