住信SBIネット銀行の強みは、既存の銀行概念を覆すイノベーションの連続にあった。
同行のNEOBANK事業は、さまざまな企業に銀行機能を提供することで「あらゆる企業を銀行に変える」という革新的なビジネスモデルだ。現在、新規口座獲得の7割がこのNEOBANK経由となっており、T NEOBANK、ヤマダNEOBANK、おうちバンクなど、提携先は拡大を続けている。
そして多くのユーザーが「コスパ最強」と評価するのが、同行のデビットカードサービスである。特に「プラチナデビット」は、7月から最大還元率2.5%という強力なサービスを開始する。さらに強力な空港ラウンジサービスである「プライオリティ・パス」が年3回まで利用可能という、年会費1万1000円で利用できるとは思えないほどの好条件だ。
「このままサービス拡充が止まってしまうのではないか」「ドコモの意向で改悪されるのではないか」――SNS上では、こうした不安の声が絶えない。
確かに、大企業の傘下に入ると、イノベーションのスピードが鈍化する例は枚挙にいとまがない。意思決定の階層が増え、リスクを取りづらくなり、既存顧客より親会社の意向が優先される――そんな懸念は杞憂(きゆう)とは言い切れない。
ドコモとしては、自社のdカードとの関係もある。プラチナデビットの年会費1万1000円に対し、dカード GOLDは同じ年会費で別のサービスを提供している。この併存をどうマネージするのか。
マネックス証券は確かにドコモの子会社となったが、上場するマネックスグループが過半の出資比率を持ち、一定の独立性を保っている。一方、住信SBIネット銀行は65.81%をドコモが保有し、上場廃止となる。独立性はかなり小さくなると考えていいだろう。
円山社長は「さらなる利益成長」を約束したが、それが既存ユーザーへのサービス向上という形で還元されるのか、それとも株主であるドコモの利益として優先的に配分されるのか。
住信SBIネット銀行が上場廃止後、「ただの子会社」になるのか、それとも独自の進化を続けられるのか――11月の統合完了後、真価が問われることになる。
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
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