筆者はかつて、フルメタルパッドという競技用のブレーキパッドをテストしたことがある。それは制動力も十分で耐熱性も高く、ブレーキダストの発生も少ないという画期的なブレーキパッドであった。
しかし、制動時のブレーキ鳴きのすさまじさも相当なものであった。わずかなブレーキ鳴きでもクレームが多い日本では、一般的なブレーキ素材として受け入れられにくいだろう。
また、ディスクローターは柔らかい鋳鉄製とするのが一般的だが、ポルシェなどの高性能モデルにはセラミックとカーボンファイバーを焼き固めたカーボンセラミックブレーキも存在する。耐熱性の高さはさすがであるが、パッドとローターを交換するとなると、乗用車1台分の費用がかかるといわれており、とても量産車には導入できない。
メルセデス・ベンツのカーボンセラミックディスクブレーキ。ディスクローターをカーボンセラミック、パッドも近い素材で作られ、耐熱性が高く足回りの軽量化にもつながる。通常走行であれば耐久性も高い。他にもカーボンファイバーをカーボン(グラファイト)で焼き固めたディスクローターもある(写真:ダイムラーベンツ)減らないブレーキパッドを開発できても、ローターがその分減ってしまうとあまり意味がない。パッドもローターも摩耗しにくい、硬い素材を使えば減りにくくなるが、それで摩擦をコントロールするにはブレーキシステム全体の見直しが必要になりそうだ。
また、硬い素材は固有振動数が高くなり、ブレーキ鳴きも発生しやすくなる。これをどう解決するかによって、ブレーキシステムの未来が決まってくるのではないだろうか。
クルマが完全自動運転になっても、ブレーキの重要性は変わらない。それどころかステアリング機構の補助装置としてブレーキを活用する考えもある。ますますブレーキの重要性は高まるだろう。
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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