退職代行モームリに家宅捜索が入ったというニュースが、大きく報じられました。実際に違法行為に関わっていたかどうかについては、今後の捜査で明らかになっていくと思います。
労働に関わるサービスをめぐっては、これまでにも数多くの問題が指摘されてきました。かつてはアウトソーシングの偽装請負が大きな問題となりました。年越し派遣村や派遣切りなどの報道が駆けめぐった労働者派遣は、社会から厳しいバッシングを受けました。直近だと、スポットワークにおける闇バイト求人などが記憶に新しいところです。
一般に、労働に関するサービスは「人材サービス」と呼ばれます。人材とは、人が持つ才能の意味です。通常は就職を目的とするサービスですが、就職と退職は表裏一体であることを踏まえると、広義においては退職代行もその一つに位置付けられるかもしれません。
退職代行の一件も含め、次から次に新たな問題が発生し続ける人材サービス業界。課題の根源はどこにあるのか、考えてみたいと思います。
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
いまやテレビをつければ転職や派遣、求人媒体などのCMを見ない日はないほど、人材サービス業界は世の中に浸透しています。一方で、どこか社会の信頼を獲得しきれていない印象を受ける業界でもあります。これまでにも、違法行為や道義的な観点から疑念が生じる事態が発生し、厳しい法規制が設けられるなどのペナルティを課されてきました。
今回、退職代行モームリに家宅捜索が入ったきっかけは、非弁提携の疑いとされています。退職代行サービスを提供する中で弁護士による法的サポートが必要となった場合に、利用者と弁護士をつなぐことで手数料を得ていたのだとすれば、それは違法行為に当たります。さらに、弁護士資格を持たない者が退職にまつわる交渉を行う非弁業務もまた法律で禁止されています。モームリには、その両方の疑いがかけられているようです。
退職代行というサービスに対しては、当初から批判の声が少なくありませんでした。特に多く見られたのが、退職代行の利用自体を否定する意見です。
職場に「辞めたい」と申し出るのは気が引けるという心理は理解できたとしても、「きちんと自分の口で伝えるのが礼儀でありケジメだ」という指摘には、社会常識の観点から一定の説得力があると感じます。
一方、過重労働を強いたりパワハラが横行したりするようなブラック企業の存在が問題視される中で、自分の代わりに退職意思を伝えてくれる退職代行業者の存在は、多くの人にとって救いにもなってきました。サービスを支持する声と否定する声とが激しくぶつかり合う構図の中で、ニーズは確実に広がってきました。
中でもモームリは最も目立つ存在であり、勢いがあったと感じます。今回の家宅捜索はそんな勢いに水を差すことになりました。ただ、退職代行というサービスの位置付けを考えるにあたっては、押さえておいた方がよい視点が少なくとも3点あります。
1つ目は、合法なサービスであることです。資格を持つ弁護士が退職代行を行う分には、何の支障もありません。退職に際して未払い給与の交渉を行うことなども、弁護士であれば対応することができます。モームリのような無資格事業者が登場する以前から、弁護士による退職代行は行われてきました。
次に、退職代行にはニーズがあることです。必要としている人は確実に存在しています。ブラック企業とまでは言えなくとも、強い圧力を感じる職場で上司に退職を申し出ることができない人、精神的に追い詰められている人など、退職の意思を自分で伝えることが難しいケースは少なくありません。
最後は、基本的な問題は関わる事業者たちの運営姿勢にあることです。仮に、非弁提携や非弁業務に該当するような行為があったとしても、悪いのは退職代行業者やその協力先なのであって、退職代行というサービスそのものに罪はありません。
これら3つの視点を切り分けて整理した上で事実関係を把握しておかないと退職代行をめぐる問題点が見えづらくなります。
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