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家電・EVの次は「通信」で勝つ 世界インフラの主戦場で描く「日本企業の逆転劇」(2/2 ページ)

» 2026年03月30日 07時00分 公開
[関口和一ITmedia]
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欧州標準化団体との提携で進むIOWNの「社会実装」

 日本勢の躍進は各社のブースにも表れていた。NTTがグループ共同で出展したブースの天井には同社の企業ロゴの「ダイナミックループ」を大きなデザインにあしらい、正面にもロゴを大きく掲げた。

 MWCにはこれまでNTTドコモを中心に出展してきており、NTTデータグループなどは別にブースを構えていた。今回はベースとなるブースの色もドコモの赤ではなく、NTTデータのブルーを基調とした色に改め、モバイル通信技術だけでなく、NTTが推すフォトニクスや光量子コンピュータ、NTTデータがグローバル展開するデータセンターの技術なども展示した。

 必ずしも日本勢とはいえないが、日本発の光通信技術である「IOWN」を推進する国際組織「IOWN Global Forum」(アイオン・グローバル・フォーラム)もMWCに独自のブースを設けて2026年で2年目を迎える。同フォーラムには180を超す企業や団体、大学などが名を連ねており、MWCでは国内外からの来場者向けに3時間以上にわたるIOWNのセミナーを開催した。

 IOWN Global Forumのブースには会場となったバルセロナとスペインの首都マドリッド、それに中央部の広大な台地、ラ・マンチャの3カ所をIOWNの超高速ネットワークでつなぐ計画案を電子地図で表示した。バルセロナとマドリッド、ラ・マンチャはそれぞれ約500キロ離れているが「IOWNを使えば、データセンターを3カ所で一体運営できるようになる」とNTTのIOWN推進室の責任者、川島正久氏は指摘する。

 IOWN Global Forumは光技術の推進組織ではあるものの、今後の実装に向けては技術の標準化が必要となる。MWCではそうした仲間づくりや標準化組織との交流にも力を入れており、今回は通信技術の国際標準化組織である「ETSI」(欧州電気通信標準化機構)との提携を発表。同機構のヤン・エルスバーガー事務局長と、IOWN Global Forumの川添雄彦会長との間で基本合意書(MOU)の調印式が行われた。

 そうした連携活動では2026年2月にも米国を中心とするデータセンター技術の標準化組織、OCP(オープン・コンピュート・プロジェクト)とも基本合意を交わしている。川添氏は「フォーラム設立から7年目を迎え、IOWNの実装がいよいよ具体的に動き出した」と語る。金融データセンターの分散化やGPUデータセンターの共同利用、放送コンテンツの遠隔制作の3つのPOC(概念実証)が、現在進んでいる。さらに化学工場の遠隔モニタリングや倉庫システムの高機能化など新たな用途も見えてきたという。

基本合意文書に署名して握手する欧州電気通信標準化機構(ETSI)のエルスバーガー事務総長とIOWN Global Forumの川添雄彦会長

未来のコンビニ、AI-RAN KDDI・ソフトバンクが示す未来の街づくり

 MWCを主催しているのは携帯電話の第2世代通信規格「GSM」を推進する国際組織としてスタートしたGSMA(英国/ジーエスエムエー)だが、日本から理事を務めているのがKDDIの高橋誠会長だ。高橋氏は2025年のMWCで基調講演を務め、KDDIは今回の会場でも手の込んだブースを構えた。「さあ、未来の街角体験へ」をテーマにデジタル技術による新たな街づくりをイメージした展示だ。

未来の街角をイメージしたKDDIのブース

 とりわけ話題だったのがKDDI傘下のローソンを舞台にした未来のコンビニエンスストアやAIアバターロボット、KDDIが出資している自動運転ベンチャー、TIER IV(ティアフォー)の自動運転バスなどの展示だった。

 未来のコンビニでは、AIを使った商品提案や情報案内サービスを紹介。大阪大学の石黒浩教授が代表を務めるロボットベンチャーのAVITA(アビータ)と、AIアバターロボットの「AVACOM」(アバコム)を展示した。これは、オペレーターの遠隔操作により、相手のリクエストに対し表情を交えながら接客するもので、来場者の話題を呼んだ。

KDDIが展示した自動運転ベンチャー、TIER IV(ティアフォー)の自動運転バス

 ソフトバンクはブースの出展こそしていなかったものの、セミナーや商談などを通じ、米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)などと進めている次世代携帯通信システム「AI-RAN」の仲間づくりをMWCの場で進めていた。

 AI-RANとは生成AIのデータセンターと無線アクセスネットワーク(RAN)のインフラを統合する次世代基地局ネットワークを指す。AIのデータセンターと無線ネットワークはこれまで別個に存在してきたが、両者を一体化し、AIで基地局の通信機能を自動制御しつつ、基地局に置いた画像処理半導体(GPU)をネットワークでつないで仮想のAIデータセンターにしてしまおうという試みだ。

 AI-RANには主に3つの役割が期待されている。AIで無線ネットワークを賢くする「AI for RAN」、基地局をエッジAIサーバとして活用する「AI on RAN」、基地局の演算処理能力を通信事業者以外に貸し出す「AI and RAN」と呼ばれるものだ。NVIDIAが2025年秋に出資したフィンランドの通信機器大手、Nokia(ノキア)は基地局にGPUを採用してネットワーク構成の最適化やアンテナの指向性の調整などを行う一方、そこで余ったGPUの処理能力を外部にも貸し出す仕組みをつくろうとしている。

 具体的にはNVIDIAのGPUの上にエッジAIサーバとRANを仮想的に共存させ、通信の需要に応じてGPUの処理能力をエッジAIと無線機能に自動で割り振る。ソフトバンクはこうしたAI-RANソリューションを「AITRAS」(アイトラス)と名付け、普及を図ろうとしている。いわば携帯基地局のネットワークを分散型の仮想AIデータセンターにして、その処理能力を通信とAIの両方に活用しようというものだ。

 そうしたAI-RANの普及を促そうと、ソフトバンクはNVIDIAやソフトバンク傘下の英Arm(アーム)の3社を中心に2024年のMWCで「AI-RAN Alliance」(エーアイ・ラン・アライアンス)という組織を結成した。現在は130社以上がメンバーとして参加している。今回の会場にも同組織のブースが置かれ、米通信半導体大手のQualcomm(クアルコム)や通信事業者大手の英Vodafone(ボーダフォン)や韓国のSK Telecom(SKテレコム)などが新たに理事に加わったことを明らかにした。

次世代無線基地局ネットワークを目指す団体「Ai-Alliance」のブース

ゴジラAIに沸く富士通ブース 日本に残された「戦略技術分野」への期待

 2025年まで「Fujitsu」ブランドでブースを構えていた富士通は、2025年7月にネットワーク事業を分社化し、新会社の「1Finity」(ワンフィニティ)を起ち上げたことから、今回のMWCでは「1Finity」を前面に押し出し、ブースもオープンな明るいイメージに衣替えした。来場者の関心を引こうと、東宝から特別に了解をもらってゴジラの画像を使い、カメラで撮影した来場者の身振り手振りをAIが分析して、ゴジラがその通りに動くというデモを展示した。筆者も早速体験してみたが、富士通が開発した体操選手の動きを画像判定するAIの仕組みを応用している。

ゴジラを前面に掲げた富士通・1Finity(ワンフィニティ)のブース

 NECは同社の米通信業者向けソフト会社、Netcracker(ネットクラッカー)が大規模なブースを設けていることもあり、NEC本体のブースは商談中心の小規模なものにし、今回はエージェンティックAIや第6世代通信規格(6G)向けの新技術を展示していた。京セラは2025年にAIを活用した5Gの仮想化基地局技術を展示して話題となったが、同社の通信機器事業の縮小に伴い、今回は出展を見合わせた。もっとも京セラはKDDIの筆頭株主であることを考えれば、今もMWCにおける重要な存在であることに変わりはない。

NECの米ソフトウエア子会社、Netcracker(ネットクラッカー)のブース

 ドイツのベルリンで毎年9月に開かれる欧州最大の家電見本市「IFA」や、米ラスベガスで1月に開かれるデジタル技術見本市「CES」からは、このところソニーやホンダなど日本の有力ブランドの撤退が相次いでいる。そうした流れから見れば、MWCでは今も日本企業が重要な立ち位置を占めているといえる。

 逆にいえば、家電製品や電気自動車(EV)などの分野では日本メーカーが主導権を発揮できなくなった今、通信は日本に残された数少ない戦略技術分野という見方もできよう。日本発の技術である「IOWN」や光量子コンピュータ、楽天の仮想化技術などがMWCの場を通じ世界からもっと注目されることを願ってやまない見本市だった。

著者情報:関口和一(せきぐち・わいち)

(株)MM総研理事長、国際大学GLOCOM客員教授

1982年一橋大学法学部卒、日本経済新聞社入社。1988年フルブライト研究員としてハーバード大学留学。1989年英文日経キャップ。1990年ワシントン支局特派員。産業部電機担当キャップを経て、1996年より編集委員を24年間務めた。2000年から15年間、論説委員として情報通信分野などの社説を執筆。日経主催の「世界デジタルサミット」「世界経営者会議」のコーディネーターを25年近く務めた。2019年株式会社MM総研の代表取締役所長に就任。2026年3月よりMM総研理事長を務める。2008年より国際大学GLOCOMの客員教授。この間、法政大学ビジネススクールで15年、東京大学大学院で4年、客員教授を務めた。NHK国際放送のコメンテーターやBSジャパン『NIKKEI×BS Live 7PM』のメインキャスターも兼務した。現在は一般社団法人JPCERT/CCの事業評価委員長、「CEATEC AWARD」の審査委員長、「技術経営イノベーション大賞」「ジャパン・ツーリズム・アワード」の審査員などを務める。著書に『NTT 2030年世界戦略』『パソコン革命の旗手たち』『情報探索術』(以上日本経済新聞)、共著に『未来を創る情報通信政策』(NTT出版)、『日本の未来について話そう』(小学館)『新 入門・日本経済』(有斐閣)などがある。

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