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バラバラだった「売上・在庫・利益」の管理 アシックスを“5年連続最高益”へ導いた「元CIO社長」の執念(2/2 ページ)

» 2026年04月07日 07時00分 公開
[佐藤匡倫ITmedia]
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AIで実現する個別コーチング スポーツブランドの競争軸が変わる

 会員基盤と顧客データの蓄積が進む中、アシックスが次のフェーズとして力を入れているのがAIの活用だ。主に、大会参加者向けの情報提供の高度化と、トップランナー向けのコーチング支援に取り組む。

 大会参加者向けの情報提供の高度化について、富永氏は「生成AIで質問すると、的確に情報を出せる仕組みを整えた」と説明する。具体例が、アシックスが戦略的パートナーシップを結んだ米国のNeurun(ニューラン)が開発するランニングイベント情報プラットフォーム「RunConcierge」(ランコンシェルジュ)だ。

 米Googleの最新AI技術を活用し、コース情報や気象条件、移動手段、宿泊、周辺情報など、複数の媒体に分散していたレース関連情報を一元化。チャット機能を通じてAIと対話することで、ランナーが必要な情報を包括的に入手できる仕組みだ。多言語に対応しており、インバウンドランナーへの対応も視野に入れているという。2026年中には、東京を皮切りに日本国内への本格展開を始める。

 もう1つが、ランナー向けの個別コーチング支援だ。「どのようなスタートをすればいいか、マラソンではここでペースを上げた方がよいといったことをAIで提案し、一人一人にコーチをつけるイメージで取り組んでいます」(富永氏)。シューズという製品を超え、ランナーの伴走者としてのブランド価値を高める試みでもある。

関税・インバウンド変動 多様化と価格適正化でリスクを吸収

 グローバル展開を続けるアシックスにとって、インバウンド需要の変動と米国の関税強化は、業績に直結する課題だ。富永氏は「インバウンド売り上げのトップが中国でしたが、外交関係の変化によって減少傾向となりました」と現状を話す。

 一方「為替レートの影響もあると思いますが、米国や欧州、アジアからの来訪者が増えているため、インバウンド売り上げ全体では成長しています。バランスは取れている状況です」(富永氏)。2025年の日本国内インバウンド売り上げは474億円に達しており、購入客の地域分布の多様化が着実に進んでいる。

 アシックスの主要製造拠点であるベトナムとインドネシアは、トランプ政権が発表した相互関税の対象となった。「当初は(関税が)一気に40%まで上がったため、これに対してどのように対応するかいろいろと議論しました」と富永氏は語る。米国市場でのランニング専門店での販売は着実に伸びており、2025年度は追加関税の影響を吸収することができた。

インバウンド売り上げは多様化とともに474億円となり大幅に拡大(2025年度決算説明資料)

インドと東南アジアへ投資 「イヤー・オブ・アジア」で需要を取り込む

 成熟した欧米市場に対し、富永氏が次の成長エンジンとして明確に位置付けるのがアジアだ。とりわけインドへの期待は大きい。富永氏は「人口が多く、今後、GDPも上がってくるという見通しがある。人口の数パーセントが走ってくれるだけでかなり違う。大きな機会があります」と語り、すでに投資を進めている。

 今年は社内的に「イヤー・オブ・アジア」(アジアの年)と位置付け、インドネシアやマレーシア、ベトナム、フィリピン、タイといった東南アジア各国での成長加速を計画する。富永氏は「まだ日本に来たことがないというアジアの社員も多いので、この機会にボランティアや研究所見学などを通じてコミュニティとして盛り上げたいです」と話す。ブランド強化と、組織の一体感醸成を合わせて進める姿勢を示す。

 2025年の東南・南アジア地域ではインドやインドネシア、ベトナムなど各国が高い成長率を記録しており、各国で売上高1億ドル超えの早期達成を目標に掲げている。9月開催予定の愛知・名古屋アジア競技大会も、ブランド訴求の機会として活用する方針だ。

アジア各国での売上高1億ドル超えの早期達成を目指す(2025年度決算説明資料)

過去最高売り上げの先へ 業界の「一歩先を行く」存在を目指して

 2025年通期の連結業績は、売上高8109億円、営業利益1425億円、当期純利益987億円と、いずれも過去最高を更新した。全カテゴリー、全地域での増収増益という結果となった。

 カテゴリー別では、ランニングシューズを主体とした、主力のパフォーマンスランニングが、高付加価値商品へのフォーカスにより増収増益を達成。「スポーツスタイル」と「オニツカタイガー」は全地域で高成長を継続し、カテゴリー利益率はそれぞれ約30%、約38%を維持した。

 2026年度の業績予想は売上高9500億円、営業利益1710億円だ。中期経営計画の最終年度として成果を確かな形にしつつ、富永氏は「2026年は、これまでの成長を土台としながら、アシックスが業界の一歩先を行く存在、"Ahead of the Game"として、革新をリードしていくフェーズに入る一年だと考えています」と語った。2035年を見据えた長期ビジョンの策定も進めている。次期中期経営計画は、2026年第4四半期に発表する予定だという。

 基幹システムの統合は4年越しのプロジェクトだった。カテゴリー戦略の転換や直販比率の引き上げ、会員プログラムの強化、AIの導入――富永氏が全社一丸となって手掛けてきた施策は、顧客との関係を深め、データを意思決定の基盤に据えるものだった。

 創業者・鬼塚喜八郎氏が終戦から間もない1949年に「スポーツを通して、子どもたちに希望を与えたい」という願いで創業したアシックス。その精神は今、データと顧客体験という現代の手段を通じて、スポーツで人々の暮らしを豊かにするという原点へと、向き合おうとしている。

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