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バラバラだった「売上・在庫・利益」の管理 アシックスを“5年連続最高益”へ導いた「元CIO社長」の執念(1/2 ページ)

» 2026年04月07日 07時00分 公開
[佐藤匡倫ITmedia]

 スポーツブランドの競争が激しさを増す中、アシックスは5年連続増収増益という結果を出し続けている。製品力に加え、成長を支えているのが、IT業界出身の経営者が主導した成長施策だ。

 ERPシステムの統合による売り上げ・在庫・利益の一元管理や顧客直販比率の引き上げ、2300万人を超える会員基盤の構築――。販売チャネルと顧客との関係そのものを作り直すことで、売り上げと利益の双方を伸ばす体制を整えてきた。

 その転換を経営の中枢で推し進めてきたのが、代表取締役社長COOの富永満之氏だ。日本IBMや独SAPなど、35年に及ぶIT業界でのキャリアを経て「いつか事業会社で新しいITをやりたい」という思いから、2018年にCIO(最高技術責任者)としてアシックスに入社。2020年には常務執行役員・CDO(最高デジタル責任者)としてデジタル部門を統括し、2024年1月に現職に就いた。

 就任から2年、売上高の80%を海外が占めるグローバル企業として過去最高益を更新し続けるアシックス。富永氏はデジタルの力で、スポーツブランドの競争軸をどう変えようとしているのか。ブルームバーグが開催した「転換点を迎えた日本市場とAIのインパクト」での講演内容から、その「執念」の経営戦略に迫る。

右がアシックス代表取締役社長COOの富永満之(とみなが・みつゆき)氏(左は聞き手を務めたブルームバーグ・ニュース東京支局長のイザベル・ レイノルズ氏。ブルームバーグ提供写真)

好調な業績の裏にある「勝てる構造」 どう作った?

 アシックスが5年連続増収増益を達成した背景には、市場環境の変化を取り込む力とカテゴリー戦略の見直しという2つの要因がある。富永氏は「マーケットが非常によい方向に向いていると感じています。コロナ禍を経て、健康志向が高まり、体を動かして気分も良くなりたいという方が増えています」と市場環境を分析する。

 健康志向の定着とともに、ランニングを軸にしたスポーツ文化の広がりも、追い風となっている。東京マラソンへの参加申込者がレース定員の10倍に達するなど、ランニングイベントへの関心は依然として高い。

 スニーカーをビジネスシーンやファッションに取り入れる文化も世界的に浸透してきた。アシックスが手掛けるブランド「オニツカタイガー」をはじめ、機能的なスポーツウェアやシューズを、日常生活のファッションに取り入れる「スポーツスタイル」の市場でも、存在感を高めている。「カジュアルやビジネスでもスニーカーを履く人に加え、ファッションとして、スニーカーを選ぶ人も増えている」と富永氏は話す。

 2025年通期の連結売上高は初めて8000億円の大台を突破。連結営業利益とともに5年連続の増収増益に加え、4年連続で過去最高を更新した。市場環境の恩恵だけで今日の業績が生まれたわけではない。

 2018年当時、代表取締役社長であった廣田康人氏(現 代表取締役会長CEO)のもと、ランニングの他、サッカー、バスケットボールなどの競技スポーツ(コアパフォーマンススポーツ、CPS)、オニツカタイガーといったカテゴリーごとに戦略を立て直し、グローバルで一体となってPDCAを回す体制へと転換した。富永氏は「売り上げよりも利益を重視するアプローチに転換したことで、ビジネスが回り出した」と振り返る。

バラバラだった基幹システムを統合 収益構造を変えた

 業績回復の出発点となったのが、デジタル基盤の整備だ。

 富永氏が入社した時点でのアシックスは、世界各地で地域ごとに異なる基幹システムを10以上も並立させており、売り上げ・在庫・利益の所在を横断的に把握できない状態にあった。「どこに売り上げや利益、在庫の情報があるか、全く分かっていない状況でした。1つのグローバルシステムにしなければならないと考えました」(富永氏)

 4年をかけてグローバル基幹システムの統合を完遂した。これにより売り上げ・在庫・利益の所在をリアルタイムで把握し、地域・カテゴリー別に課題の所在を特定。迅速に対策できる体制を整えたという。この基盤の整備が、その後の収益改善と意思決定のスピードアップを支える根幹となった。経営データの一元管理が収益構造の改善に直結していることは、営業利益率の継続的な改善という数値にも表れている。

 77年の歴史を持つアシックスでのシステム刷新は容易ではなく、各地域の現場からは抵抗もあったという。それでも変革を貫けたのは「『ここは一気にやらなきゃいけない』という意志とトップのサポートがあり、強い信念をもって進められた」(富永氏)からだ。

卸売中心から「顧客直販40%」へ転換

 システム統合と並行して、販売モデルの転換も進めた。2018年時点で卸売比率は74%、2020年時点で67%と、卸売中心のビジネスモデルが続いていた。転換の核心は、会員プログラムへの投資だ。2025年には、消費者への直接販売比率を約44%まで拡大させた。富永氏は「直接お客さまを理解し、メッセージを送る。そこに投資したことが大きかったです」と語る。

 会員プログラム「OneASICS」の会員数を、2025年末時点で2313万人まで伸ばした。日・米・欧・豪だけでなく中華圏、インド、その他地域でも順調に拡大中だ。グローバルな顧客基盤の厚みが増している。

 アシックスは、大規模なスポーツイベントに合わせたキャンペーンの実施や、顧客への情報発信を強化している。

 富永氏は「例えばシドニーマラソンの場合、約9カ月前からどういう方が走るか分かるため、20回程度さまざまなコミュニケーションを取れます。イベントや新たなシューズの情報、大会当日の天候など多方面での情報を提供できます」と話す。実際、エキスポ(スポーツ大会に関連したイベント)での売り上げは4倍に拡大したという。

 こうした取り組みを支えるのが、マラソン大会の参加申し込みから参加者管理、記録表示まで一連のサービスを提供するレース登録プラットフォーム企業企業の買収だ。2025年11月にはタイ最大手の「Thairun」(タイラン)と、スペイン市場シェア2位の「Deporticket」(デポチケット)を相次いでグループ化。2026年2月には米国でも「GetMeRegistered」(ゲットミーレジタード)などのレース登録プラットフォームサービスの事業を取り込んだ。

 アシックスがこうした企業の買収を進める狙いは、シューズ販売にとどまらない顧客接点の確保にある。OneASICSとの連携を通じ、大会参加者をECサイトや直営店へ誘導するとともに、同社がスポンサーを務める大会とも連携してブランド発信の強化と商品認知の向上を図る。

  相次ぐグループ化により、北米や欧州、日本、オセアニア、東南アジアにおいてレース登録プラットフォーム企業としての地位を確立しつつある。 日本では「富士山マラソン2025」においてグループ会社のアールビーズが海外ランナー向けのサービスを提供。参加者の約70%がインバウンドという実績を残した。

デジタルと大会運営の融合が生む新たな顧客接点(2025年度決算説明資料)
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