「あんた、やるかい?」 看板商品のレシピなし、機械は老朽化……75年続く「喫茶店」の事業承継(4/4 ページ)

» 2026年05月16日 07時30分 公開
[熊谷紗希ITmedia]
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人もゼロから 通年営業を決意

 人材面でも解決すべき課題が残っていた。コロナ禍という状況もあり、以前働いていた約10人のアルバイトは誰も戻らず、新たに人材を確保する必要があった。加えて、従来のモア松屋は5〜10月の季節営業だったため、「このままでは人材が定着しない」と考えた別井さんは、通年営業へと方針を転換した。アルバイトの新規募集には約20人の応募があり、まず8人を採用。その後、5人を追加採用した。

 「もともと夏から秋の初めのみの営業ということもあり、冬場は来店客が大きく落ち込むと想定していました。夏場は平日でも200人前後、土日には600〜1000人ほどが訪れる一方、現在も冬場は10〜20人程度という日も珍しくありません。店頭以外で売り上げを確保する仕組みを考える必要がありました」

 そこで取り組んだのが、オンライン販売とふるさと納税の返礼品登録だ。新たに通販を開始し、発送用のパッケージを用意。従来は紙袋に入れて店頭で手渡していたアイスもなかも、配送に対応するため個包装を導入した。さらに、ふるさと納税の返礼品に登録することで、11〜12月にかけて注文が入る流れを整えた。

 また、牛乳販売事業の取引先である病院や保育園などにアイスもなかを届けることで、まとまった量の注文を確保。店頭販売以外の収益源を築いていった。

 1年の準備期間を経て、2021年のゴールデンウィーク初日にモア松屋は営業を再開した。当時は3回目の緊急事態宣言下にあったため、宣伝や告知は一切せずに店を開いた。それでもゴールデンウィークの5日間で4000人超が来店し、休業期間を経てもなお、多くの人がモア松屋の再開を待っていたことを実感したという。

モア松屋の店内(画像:編集部撮影)

 「営業再開の日が近づいたころ、やっと先代から『仕入れはこれくらい必要だよ』といった数字に関する助言をもらえました。『全然お客さんが来ないかもしれない』と不安に思っていましたが、想定よりも必要な仕入れ量が多くて、意外と大丈夫かもしれないと初めて思いました」と別井さんは振り返る。

 ゴールデンウィークの営業を踏まえ、人気商品の在庫数などを調整した結果、同年5〜6月の売り上げは想定よりも伸長。モア松屋は新たなスタートを切った。

 昼間は家族連れやカップル、夕方には中高生が立ち寄るほか、仕事帰りに訪れる人もいるという。常連客も多く、来店を重ねるうちにアイスもなかをまとめ買いするようになるケースも少なくない。

 また、SNSでの発信を始めたことで、以前は地元客が中心だったが、遠方から足を運ぶ来店客も増加した。「昔食べていた味を子どもに食べさせたい」と訪れる人や、通販で店を知って来店する人など、県外客も増えているという。

メニューの拡充にも取り組む

 「お客さんが来てくれることが、こんなにありがたいとは思わなかったです」。契約ベースで売り上げが見込める牛乳販売業とは異なり、喫茶店の売り上げは日々の来店客数に左右される。別井さんは、もともと営んでいた牛乳販売業との違いを実感したという。

 現在は、主食や焼き芋といったメニューの拡充にも取り組み、継続的に足を運びたくなる店づくりを進めている。味を守るだけでなく、事業として続けていくための仕組みをどう築くか。その取り組みが、地域に根付く店をつくることにつながっている。

壺型の焼き芋メーカー。冬には焼き芋を販売する計画だという(画像:編集部撮影)
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