今回の中計をより深く理解するため、まずは資料の構成を見てみたい。
以下の図表は、今回の中計における戦略部分の項目を抽出したものだ。色付けされた部分は食品小売に関係する部分だが、全体の半分ほどを占めていることが分かる。
ヘルス&ウエルネスの一部も、食品小売に関係する項目として見て良いだろう。ドラッグストアのさらなるシェアアップに加え、ドラッグストアと食品小売を組み合わせた「ドラッグ&フード」業態の強化が示されているためである。
こうして見ると、今回の中計の中心にあるのは食品インフラの強化であることが分かる。食品インフラを強化した上で国内スーパーやドラッグストアのシェアアップを進め、並行してM&Aも加速する点に、かなり重点が置かれている。その一方で、アジアやEC、ネットスーパーなどへの言及は、これまでと比べてもかなり薄くなっている。
この背景には、小売業界を取り巻く大きな環境変化がある。デフレからインフレへの転換である。
スーパーをはじめとする食品流通市場では、イオンが各地で上位シェアを持っている一方で、地域ごとの有力なご当地スーパーも存在感を保っている。
しかし、これは現在の小売業界では、むしろ珍しい状況である。他の小売業態では、すでに上位企業による寡占化がかなり進んでいる。コンビニは上位3社で市場の9割を占め、ドラッグストアも上位7社で7割を占める。ホームセンターも同様に、上位企業の寡占化が進みつつある。
これに対して、食品小売市場ではまだ寡占化が十分に進んでいない。最大手であるイオンのスーパーの売り上げは、非食品を含めて6兆7000億円ほどある。それでも、50兆円超ともされる食品小売市場全体で見ると、シェアは13〜14%程度だ。
なぜ、食品小売では他業態ほど寡占化が進まなかったのか。
その理由は、生鮮食品や総菜を扱うスーパー特有のオペレーションにある。生鮮食品の小分けやパック詰め、総菜の製造などは、各店舗のバックヤードで行われることが多い。工場生産の商品を並べるだけでは済まないため、規模の利益が働きにくかったのである。
スーパーでは、生鮮品や総菜の売り場が、壁面に沿って配置されていることが多い。これは、その壁の裏にバックヤード、つまり加工場があるためである。生鮮品の小分けやパック詰め、総菜の製造は、このバックヤードで行われている。あえてガラス張りにして作業の様子を見せている店舗も少なくない。
背景にあるのは、日本の消費者が鮮度に敏感であることだ。店内で切り分け、パック詰めし、出来たての総菜を並べる。この提供方法が消費者の支持を得たことで、日本のスーパーでは「インストアオペレーション」が事実上の標準となった。
しかし、この仕組みは多くの人手を必要とする。その結果、日本のスーパーは他の小売業態に比べ、企業が生み出した付加価値がどれだけ働く人に向かっているかを示す労働分配率が1割ほど高い、労働集約的な産業となってきた。
チェーンストアは本来、小分け、パック詰め、製造といった作業を集中作業センターに集約することで、規模の利益を発揮する。これを競争力につなげるのが、基本的な考え方だ。
しかし、日本のスーパーは、店内加工を前提とする独特の形に進化してきた。そのため、他の小売業態のように上位寡占化が進まず、地域ごとのご当地スーパーもイオンと併存することができたのである。
ただし、これはデフレ環境があったからこそ成り立っていた仕組みでもある。人手不足や人件費の高騰が進むインフレ環境では、労働集約的な現在の仕組みは、持続可能性を失いつつある。
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