ホークスは人材のマネジメントにおいても、明確なビジョンを持っている。同社が重視しているのは「どんなチームを目指すのか」「どのような選手を育て、どう戦うのか」という組織の輪郭を言語化することだ。
「ファンがどんな野球を求めているのか、王会長がどんな野球を目指してきたのかを言語化し、それを積み重ねる中で『ホークスといえばこういうチームだ』という像がはっきりしてきました。これは単に伝統ができたという話ではなく、組織の判断基準が明確になったということです。メジャーリーグを見ても、強い組織ほど自分たちの色が明確で、スカウト、育成、現場の戦い方までが一つの戦略でつながっています。ホークスもこの30年で、その状態に近づいてきたと思います」
この「自分たちの色」が明確にできているからこそ、ホークスは「他社では評価が分かれる人材でも、自社の中なら力を発揮できる」といった独自の視点で人材を評価し、獲得につなげることが可能となっているのだ。
1軍から4軍まで擁するピラミッド組織の中で、選手が上のステージに上がるための基準についても、指導者の主観や勝敗といった結果だけに依存していない。打球速度や投球の回転数、動作解析データといった「個人の成長プロセス」を定量的に可視化し、納得感のある指標を示しているという。
同社の人材育成の特徴は、欠点を直して「平均点」の選手を育てるのではなく、個の強みを最大化する適材適所のマネジメントにある。城島CBOは「私たちが大事にしているのは、選手の欠点を並べることではなく、強みをどう伸ばすかです。プロの世界では、全てがそろった選手ばかりを集めることはできないですし、必ずしもそれが最適解とも限りません」と断言する。
だからこそホークスは、何か一つに突出した武器を持つ「スペシャリスト」を見いだすことに注力しているのだ。際立った個性や強みを持つ選手は、チームの勝利に貢献するだけでなく、ファンを熱狂させ、球場に足を運ばせるための強力な資源にもなる。
組織の判断基準が言語化されているからこそ、一貫した組織運営ができる。城島CBOは「スカウト(の担当者)はスペシャリストを見つけ、育成(の担当者)はその長所を伸ばし、現場はそれをどう勝ちにつなげるかを考えます。この一貫性があるからこそ、組織としての再現性が生まれるのです」と話す。
この一連のプロセスこそが、組織的な強さの源泉となっている。城島CBOは「データを見る人間もいれば、技術指導を担うスタッフもいます。そうした情報を持ち寄って『この選手にはどんな育成方法が合うのか』を議論し、できるだけ効率の良い成長曲線を描いていくのです」と説明する。
属人的な指導から脱却するため、同社は、最新のデータやテクノロジーを駆使している。
具体的には「ベースボールサイエンス部門」を設け、各軍に帯同して戦術を分析するアナリストや、モーションキャプチャーによる動作解析などを担うR&Dの専門スタッフを配置している。指導体制においても、技術的な指導を行うスキルコーチと、戦略面に特化する打撃コーチを置き、役割を明確に分けている。
城島CBOは「選手の成長を一人のコーチの経験や感覚(といった暗黙知)だけに委ねるのではなく、組織全体で支えることが大切です」と語る。スカウトが選手の背景を把握し、科学班がデータを分析し、現場の指導者がそれを実際の勝負の駆け引きに落とし込む。多角的な情報を持ち寄ることで、組織全体で選手を育成している。
こうした高度なデータ活用や組織編成を支えているのが、ホークスの根底にある「まずやってみる」というアジャイルな組織文化だ。同社は、プロ野球界で、いち早く3軍制や日本初となる4軍制を導入するなど、常に新しい施策を打ち出してきた。
城島CBOは「ホークスの組織の強みは、まずやってみようという文化があることです」と説明する。
「孫正義オーナーは『議題に上がったことならまずやってみなさい』という考え方ですし、王会長も『朝令暮改でいい』とよく話します。つまり昨年うまくいったからといって、今年も同じことを続ける必要はないということです。むしろ、うまくいっているときほど新しいことに挑戦し、もし駄目なら戻せばいいという発想が組織に根付いています」
何かを始める前に失敗の責任を問うのではなく、失敗を「うまくいかない方法が一つ分かった」という成果として捉える。例えば4軍の運用に関しては、実戦を重ねるのではなく、練習による課題解決に特化した組織として、その体制を位置付けているという。また、単に体を動かすだけではなく、ホークスの歴史やカルチャー、ソフトバンクという会社の成り立ちを学ぶ時間も設けた。数年前に4軍を始めた時とは、その運用を大きく変えているという。
城島CBOは「決めたから変えないのではなく、必要ならすぐ変える。それを本気で実行できるのが今のホークスだと思います」と話す。全ての仕組みをあくまで「途中経過」と捉え、変化を恐れずに常に最適解を探り続けているのだ。
ホークスの強さは、一つの戦略でつながる組織設計と「王イズム」というナレッジの継承、そして変化を恐れないアジャイルな組織風土によって生み出されている。王会長のDNAを組織のアイデンティティとして継承しながらも、その手段は時代の変化に合わせて柔軟にアップデートしているのだ。
この一貫した組織設計こそが、同社に再現性のある「常勝」をもたらしている。プロスポーツというビジネスにおいて、組織の質はそのままグラウンド上の「商品価値」に直結する。
そして、洗練された“強い組織”が勝ち続けることは、単なるスポーツの熱狂を生むだけにとどまらない。勝つことで顧客満足度を上げ、ひいては福岡を活性化させる経済基盤にもつながっているのだ。
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