ANAに対する批判がネット上で一気に広がったのは、4月23日にSFC制度改正が発表されてからだ。その翌月に新運賃や新システムでのトラブルが起き、ANAに対する厳しい見方は今も続いている。
しかも、社長をはじめトップが公の場で謝罪したのは、クローズドな空間である株主総会と、一部の報道でのみにとどまる。サポートの電話がつながる時間も、国内線・国際線ともに当初は「2時間以上」だった。現在はやや短くなっているものの、つながりにくい状況が続く。
ANAが一般向けの記者会見を開かないまま迎えた6月26日の株主総会当日。期せずして、同社の開示姿勢に対する「外圧」が公の場でもたらされた。国土交通省の金子恭之大臣による記者会見でのことだ(金子大臣会見要旨)。
ANAのシステム変更に伴うトラブルについて問われた金子大臣は「一定の場合にオンラインチェックインができないなどの事案が発生していると承知している」「利用者からの問い合わせが増加していることも承知している」と言及。その上で「国土交通省としては、航空局からANAに対して、利用者への丁寧な対応と併せて、早急に原因の究明及び再発の防止に取り組むよう指示をした」と明かした。
国がわざわざ「利用者への丁寧な対応」を名指しで指示したという事実は極めて重い。現場の混乱やカスタマー窓口のまひ状態が、一企業のサポート体制の限界を超え、社会インフラとしての信頼を揺るがす事態に発展しているという客観的な事実と言える。
企業広報には、新サービスやキャンペーンといった明るい情報を発信する役割がある一方、障害や不祥事といった有事における「危機管理広報」こそがその本質を映し出す。顧客の不満がSNSで瞬時に拡散・共有される現代において、まひした窓口の現状やシステムの不具合を、公式サイトの文書一枚で済ませようとする姿勢は、行政の目から見ても説明責任を果たしているとは言い難い状況だった。
企業に対する信頼とは、平時の華やかなプロモーションより、システム障害や不祥事といった「有事」が起きた際の「自律的な規律」と「開示のスピード」で決まるといっても過言ではない。
ANAホールディングスの芝田浩二社長が株主総会の数日前、SFCのルール改定を巡り「一定程度の離反というのは織り込んでの話」とメディア取材で発言。この後にSFCの発表済み改正内容の見直し検討が公式サイトに載った。その後の有料座席オプションの検討と合わせ、一貫性のない会社というイメージも付いてしまった。
「JALに乗り換えた」というユーザーの声もよく聞かれる。ただ、日本の航空業界では大手航空会社はANAとJALの2社しかない。都市部ならどちらかを選べても、北海道の紋別空港や、鳥取県の鳥取・米子の両空港など、地方ではANAの便しかない空港もある。他の飲食やサービス業界と違い、顧客の選択肢が限られているのだ。それもあり、ANAは「記者会見などせずとも事が収まる」と現時点で判断したのかもしれない。
外部から見て厳しすぎるほどの処分で身内の膿を出し切ろうとしているJALの「外向きのガバナンス」と、既存客の切り捨てや説明先送りが目立つANAの「内向きの広報」。企業姿勢の違いは、このままでは今後のリピート率やブランドイメージに長期的な影響をもたらすのではないだろうか。
対応の差は、一般企業にとっても重い教訓を残している。選択肢が限られた航空業界であれば、説明を先送りにしても市場の構造に守られるかもしれない。しかし、代替サービスが多く存在する一般的な競争市場において、内向きの論理による開示の拒絶は、即座に致命的な顧客離れへと直結する。
危機管理広報の要諦とは、有事における「開示のスピード」と「誠実な説明責任」にある。不都合な事実から目を背けず、社会に対して明確な自律的な規律を示せるか。それこそが、企業の明暗を分けるブランドの防衛ラインとなるはずだ。
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