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アシックスはいかにして復活したか──「箱根駅伝着用ゼロ」の屈辱から売上高1兆円を叩き出した「選択と集中」(2/6 ページ)

» 2026年09月02日 07時00分 公開
[中西享, 今野大一,ITmedia]

「厚底なんて、一過性のブームに過ぎない」 ナイキを見くびった代償

 2017年、陸上長距離界の王者だったアシックスの足元を、大きく揺るがす事態が起きた。ナイキが投入した厚底シューズ「ヴェイパーフライ」である。

 それまでの長距離ランニングシューズの常識は「軽さを追求するためにソール(靴底)を薄くする」という薄底至上主義だった。何十年間もその「薄底の成功体験」で世界をリードしてきたアシックスの社内には、ナイキの厚底に対する甘い見立てが存在していたという。

 「厚底なんて、一過性のブームに過ぎない」 「あんなに分厚いソールではけがのリスクが高く、履きこなせるランナーなど限定的だ」 「アシックスイズムを貫いていれば、いずれランナーは薄底に戻ってくる」

 廣田氏は「この当時、駅伝などで30%くらいのシェアを持っている成功体験があったので、ナイキの厚底は受け入れられなかった。特に中間管理職はそうでした」と打ち明ける。

 過去の成功体験から、新勢力のイノベーションを「一過性」と見る空気が支配的だったのだ。しかし、現場のランナーたちの判断は冷静だった。分厚いフォーム材とカーボンプレートがもたらすタイム向上に魅せられた選手たちは、続々とナイキの厚底へと乗り換えていった。

 その代償は、2021年1月2〜3日の「東京箱根間往復大学駅伝競走」(箱根駅伝)で表れた。全10区間、210人のエリートランナーが駆け抜ける舞台において、かつて過半数以上のシェアを誇っていたアシックスのシューズを履いたランナーは「0人」だったのだ。

 「着用率ゼロ」──。日本の陸上界を支えてきた老舗メーカーにとって、それは歴史的敗北だった。廣田氏が社長に就任した2018年には、北米事業の不振も重なって約200億円の最終赤字を計上。2020年にはコロナ禍が追い打ちをかけ、営業赤字に転落していた。

 「このままでは、アシックスという会社そのものが立ち行かなくなる」──廣田氏は当時の危機感をこう振り返る。

ナイキが投入した厚底シューズ「ヴェイパーフライ」(ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%。同社のWebサイトより)

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