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インタビュー
» 2013年08月19日 10時30分 公開

“富士フイルムならではの色”がある、その秘密を聞く (2/2)

[荻窪圭,ITmedia]
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色と階調の関係性

――青や緑の話も教えてください

芦田氏: 例えば緑ですが、一口に緑と言ってもいろいろな緑があります。少し青みがかった方が緑はきれいに見えますが、そちらに合わせてしまうと芝生のちょっと黄色い感じが出てこなくなることにもなりますので、あまりどちらかの方向に寄せるというよりは、色相的にはニュートラルな方向に持ってきています。その方が細かい色の違いがちゃんと出ます。

 その上で、ベルビアはプロビアより少し青み、アスティアは黄色みという色味や彩度などでフィルムシミュレーションごとに個性を持たせて使い分けられるようにしています。

 青空はどちらかというと、ちょっとマゼンダ方向の方がきれいな青空のイメージになりますから、それを意識してチェックしています。彩度も上げすぎると飽和の問題がでてきますから、飽和しにくいような技術を入れています。

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 色評価用のチャートを使って測色的な評価も行ってますが、それだけではうまくいきません。屋外で実写すると紫外線や赤外線の細かい影響も出てきますので、実際にチャートとはズレていてもこっちを採用する、というような細かいチューニングをしてます。

 実写のチェックは非常に大事です。特に色のつながりですね。チャートでチェックするのと、実際の被写体を見るのとでは重みに違いがありますから。

――そのあたりのノウハウは、やはり長年のフィルム時代の蓄積がベースになっているのでしょうか?

芦田氏: フィルムの化学反応のノウハウをそのまま使うことはできませんが、考え方や思想は引き継いでいます。こういう場合は発色を上げて鮮やかさを出す、こういう場合は発色を抑えてつながりをだすという感じですね。

――色の話を伺ってきましたが、階調も大事ですよね。ハイライトやシャドウ部をどう表現するか。特に最近は暗部補正やハイライト補正で階調を豊かに見せる技術が進歩してます。富士フイルムさんはハイライト部の階調をより重視しているように思えます。

芦田氏: いかに滑らかにつなぐかも大事ですし、黒つぶれや白飛びといったダイナミックレンジ的な要素がしっかりしてこそいい色をのせられるので、グレイの階調は重要視してます。

 シャドウ部はある程度ソフトウエアで処理できるのですが、ハイライト部は技術的に難しいのです。ですが我々はそちらが大事だろうということで、ハイライト部を残すべきという考えを優先しました。

 白飛びをすると情報が消えてしまいますし、ハイライト部がもうちょっと表現されるともっといい絵になることが多いものですから、我々はまずダイナミックレンジを広く撮れる撮像素子を開発しました。それによって階調が豊かになって色の表現を発揮できるようになりました。ただそのために撮像素子を開発するのは大変なんです。

 そこで今はダイナミックレンジ補正機能として、ダイナミックレンジを広げるときはISO感度を上げて暗く撮ることでダイナミックレンジを稼ぐということをしてます。つまりわざとシャッタースピードを速めて露出アンダーで撮影し、画像処理で持ち上げてます。

 例えばDR400%の場合はわざと2段落として撮影し、あとから4倍に上げてます。そのとき、暗いところは上げますが、明るくなるにつれ徐々に滑らかにしてハイライト部は上げません。それによってなめらかな階調でハイライト部を残すことができてます。DRオートの場合はハイライト部とシャドウ部の両方をみて、どうするか判断しています。

――つまり、ISO100のシチュエーションでDR400%で撮るときは、ISO400の画質になるけれども、その分、ハイライト部は2段アンダーで撮ったときと同じくらい広くなりますよ、という意味なのですね。

芦田氏: そうです。

――今まで伺った手法はRAWで撮ったときにはあまり生かされませんよね。やはり富士フイルムとしてはRAWよりJPEGで撮って欲しいという考えなのでしょうか。

芦田氏: われわれとしては撮った後で何か処理を加えないといい絵にならないのは責任を果たしていないと考えてますから、JPEGでいい絵を出すというポリシーでやってます。その上で、自分好みの絵づくりを細かく行いたいという人はもちろん、後から各種絵作りを楽しむこともできるので、RAWも使っていただきたいと考えています。


 長年、様々なデジカメの絵を見てきた者としていえば、デジカメ黎明期、フジフィルムの絵は突出していた。見映えのする鮮やかな発色が実に気持ちよかったのだ。その後、冒頭で話が出たように各社の絵づくりが似てきて、大きな差はなくなったように見えるが、それでもよく見るとメーカーによって違う。

 青空や緑もわかりやすいが、一番感覚的な違和感を感じやすいのは肌色。われわれがもっとも敏感な色だ。いろいろなシチュエーションで人物を撮ると、確かにフジフィルムのカメラで撮った人物は健康的なのだ。肌が白っぽくも黄色っぽくもならず、鮮やかだけどナチュラルな肌色に見える。それは偶然ではなく、そう見えるような絵づくりをフジフィルムがしているからなのだ。

 個人的には、やはり長年フィルムを作り続け、プリントし続けてきたノウハウや経験が生かされているのだろうなと思う。フィルムを作り続けてきた会社はフジフィルムだけではないし、当時のフィルムメーカーはみなデジカメにも参入したが、今残っているのはフジフィルムだけになってしまった。残念なことではあるが、フィルムからデジタルへの激動の時代を生き残ったのは素晴らしいことであり、おかげでフジフィルムならではの絵づくりを今でもこうして体験できるのだ。

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