先にも述べたが、20世紀末頃より、情報システム子会社のベンダーへの売却、あるいはベンダーとのアウトソーシングの受け皿会社を設立し、本体の情報システム部門を大規模な転籍させるといったことが派手に進められた。企業側の理由やベンダーによる宣伝文句はいろいろとあったが、一言でいえば激しい人切りによるコスト削減、資産の軽量化を目的としたものだ。わずか数年立った今、これらの取り組みは多くの問題点を企業に突きつけている。
確かに企業は一時的には人件費の削減、資産の軽量化というメリットを享受した。だが、一方で、サービスレベルの低下、企業本体におけるITに関する企画力の低下といった定性的な問題点が深刻化している。さらに、最大の問題点は、企業側が何をやるにしてもアウトソーシングベンダーのいいなりにならざるを得ない状況に陥ってしまっていることだ。そのためにIT投資・コストの抑制の効果を得られてないという状況も多くみうけられる。
この原因を挙げだすときりがないのだが、今回特に考えるべき点としては、企業側がIT資産に関する知恵をベンダー側に確保されてしまった点があげられる。もう少し噛み砕くと、企業のシステムを知っている人をベンダー側に確保されてしまい、企業側は、既存システムのメンテナンスから新規システムへの置き換えにいたるまで、何をやるにしても適正な判断を下すのが困難となってしまったということだ。
今後のオフショアによるリストラを行う際には、この反省を踏まえて冷静に進めることが必要だが、具体的にはIT資産の形式知化が必要となってくる。
まず企業側としてはIT資産を可能なかぎり形式知化することに注力することとなる。
多くの企業におけるIT資産は、属人的な管理に委ねられているところが多いのが実態だ。特に歴史ある企業の場合はなおさらだ。この属人的な管理が、アウトソーシングによる問題を引き起こした大きな原因であることは先に述べたとおりである。これを繰り返さないために、企業は自社のIT資産の「形式知化」を精力的に進め、IT資産の管理の担当先の選択肢を増やすことを実現していく。多くの企業がEA(Enterprise Architecture)の手法を活用してこれを進めることとなるだろう。
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