過剰なIT投資に陥らないコツITILを深める! サービスデリバリ編(3/3 ページ)

» 2005年08月04日 08時00分 公開
[インフォリスクマネージ,ITmedia]
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 ITサービス財務管理に必要とされるプロセスは、IT部門やベンダーのサービス提供部門のみで完結しない。例えば、たいていの会社では予実統制のプロシージャは、財務経理部門などのバックオフィス組織によって規定化されており、レポートのアウトプット責任はそれらの組織にある。

 課金、IT会計についても同様である。ただし、ユーザーに対するITサービスマネジメントの責任を果たすことにおいては、財務経理部門もITサービス財務管理のプロセスの適用範囲であり、サービス提供責任の所在部門は、財務部門や会計士と緊密に連携する必要がある。

投資の評価

 冒頭に紹介したBSCで財務の視点による指標に触れたが、ITサービスの内容や品質に対する変更のための投資が、事業上のどれだけ便益が得られたか、効果を定量化することはITILにおいても極めて重要である。直接的な利益をもたらすECサイトなどは、その効果は容易に定量化できるが、間接コストの削減を期待したり、ユーザーの利便性を向上する目的で導入するグループウェアやメールシステムなどは、定量的な効果を見出すことが困難である。

 しかし、設備投資とは一般的に中長期の効果について期待するものであるため中長期的な効果について目標設定し、投資することは不可欠であるといえる。投資対効果について、一般的かつ汎用的な指標の1つを次に挙げる。

ROI=平均増加利益(投資回収において同意された複数年の平均)/投資


※投資についてはファイナンスコスト、将来利益についてはキャッシュの現在価値を考慮する。キャッシュの現在価値とは、将来得る利益を、現在の現金として割り引いた価値を指す。主にDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法などで導き出すのが一般的である。

 グループウェアの導入に例にとってみよう。情報共有やワークフローなどの機能が全社的に導入される効果を定量化することは、かねてより困難とされていたので、あえて紹介しよう。

 まず、同システムの導入に3カ年の投資効果を見込むことをユーザー部門(全社的な効果であれば経営陣)と合意する。売上は対前年比でコンサバティブに増加していくと仮定し、導入により間接人員のコストを下げていくことを目標にどれくらいのコスト削減効果をもたらし、結果として利益がどれくらい増加するのかを計画する。この結果3カ年の増加利益を総投資額で割った係数がROI(投資対効果)というわけである。

 この際、1回限りの投資コストと、導入に伴い増加する運用コストをきちんと識別し、計上することが必要とされる。また、この期間は企業によっては12カ月の場合もあり、3〜5年の場合もある。これらは法定の償却年数ではなく、任意に設定するべきものであり経営陣の意思決定により導き出される。すなわち株主の要求に応じて、決定付けられるということである。

 例示したグループウェア導入の論法は一見すると、かなり強引に見える。もちろんこのアプローチ唯一無二であるということもない。しかし、企業活動においてすべての投資は、利益を増加させることにあるという前提に立ち、事業により強く関与させた指標をもつことが重要であることを示している。これはしばし陥るIT組織における自己目的の投資やIT組織が事業のニーズから乖離して投資することを防ぐ効果をもたらし、その導入結果の評価を適正にするはずである。

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