「経営戦略としてのSOAとは何なのか?」──この連載「成功するSOA、失敗するSOA」では、SOAでビジネスを変革するヒントを紹介していきます(日本BEAシステムズ著「ビジネスはSOAで変革する」からの抜粋です)。
ひと昔前に全世界的にERPが流行しました。ERPは、全社規模ですべてのモジュールを導入しなければ効果が出ないため、多くの企業は膨大な予算と時間を費やし大規模導入に踏み切りました。
この全社規模の導入方法を、一般に「ビッグバンアプローチ」といいます。
ERPは業務プロセス全体を見直す難しいプロジェクトであるため、中には、投資に見合う効果を得られず、計画が頓挫してしまった企業も少なくありませんでした。
ERPで痛い目に遭った企業は、「ビッグバンアプローチはうまくいかない」という考えを持つようになりました。「業務プロセスの全面的な変更は、企業文化そのものを一変させることなので、社員全員の賛同を得るのは困難だし、日本の企業にはなじまない」という教訓がERPによってもたらされました。
経営層やCIOの方に、「そのSOAとやらは、システムうんぬんのレベルではなく、経営の全体最適化なのだから、ビッグバンアプローチが必要なのではないか」と質問されることがあります。
確かに、SOAの目的は、市場の変化に迅速かつ柔軟に対応する企業体質をつくることにあり、全体最適化手法であることは間違いありません。SOAの効果を最大限に発揮させるためには、全社規模の取り組みが必要なことも事実です。
しかし、それは最終的な姿であり、今すぐその理想形に到達できるわけではありません。
「Think Big, Act Small」──これがSOAを成功させる基本的なアプローチ方法です。
「SOAを成功させる組織とは?」に、本当の意味でSOAを実現するには3年から4年程度の時間が必要になると書きましたが、これは事実です。
SOAを成功させるには「Think Big」、つまり全体最適の思想が必要ですが、始める方法は「Act Small」、つまり、小さく始められるのです。
「小さく始める」という具体例は、アプリケーションの再利用が頻繁に発生しそうな部門を選び、まず小規模なIT基盤を導入し、既存のサービスを引っ張り出してつなぐことから始まります。これを始めると、やがて業務プロセスに適した再利用のルールが生まれ、「小さな標準」が生まれてきます。この「小さな標準」を他部門にも適用し、さらに精度を高め、ガバナンスを整備していくことが、SOAへの近道です。
SOAがそのポテンシャルを最大限に発揮するのは、アプリケーションの再利用が当たり前となり、「作らずに、創る」環境が整ったときです。その意味では、小さく始めた場合、サービス自体が少ないため、再利用の回数は少ないかもしれません。
しかし、前向きな企業活動が行われていれば、どんな小規模な組織でも必ず再利用の場面はやってきます。その再利用回数が、最初の1年は1回しかないかもしれません。
しかし、これを2回、3回と重ねるうちに、必ずその効果が表れます。開発コスト削減はもちろん、現場エンジニアの負荷軽減、市場への対応スピード向上といった効果を多くの人が実感するはずです。
そうなれば、必然的に社内のSOA展開スピードが早まります。結果として、気が付いたときには全体最適が図れていることでしょう。
もうひとつ断言できることは、SOAへの投資は将来にわたって絶対に無駄にならないということです。SOAは、時流に乗ったソフトウェアソリューションなどとは一線を画す、ITと経営を融合する包括的なアプローチです。
「変化し続けることだけが、不変の真実」である以上、変化に対応するすべを身に付けることは、企業が成長を続けるための絶対条件です。ですから、SOAの投資は決して無駄にはなりません。どんな形にせよ、必ず経営へのプラスとなって戻ってきます
「成功するSOA、失敗するSOA」
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