「経営戦略としてのSOAとは何なのか?」──この連載「成功するSOA、失敗するSOA」では、SOAでビジネスを変革するヒントを紹介していきます(日本BEAシステムズ著「ビジネスはSOAで変革する」からの抜粋です)。
SOAは、ある特定部門の生産性を上げる部分最適ではなく、全社規模でのビジネス効率を高めることに、その目的があります。この観点でいうと、SOAの実行部隊は、社内システムの運用管理を担うシステム部門では少々荷が重いでしょう。
全社的な経営ビジョンやIT計画を把握した上で、最新技術に精通した専任チームを組織しないと、SOAの成功は困難です。この専任チームはあくまでもSOAを実践するためだけのチームであり、事業部のシステム開発を担うプロジェクトチームとは、別組織でなくてはいけません。
専任チームには、常に技術動向を追いかけて「現時点で何ができるか」を熟知し、「最新技術を使えばここまでカバーできます」「この技術を使うべきです」と、CIOに提言する人材が最低でも一人、できれば二人必要です。
また、SOAの効果は、全社規模で再利用を進めることで最大化するので、関係者全員が常に再利用を意識して開発を進めることが必要です。
しかし、頭ごなしに「再利用を考えろ!」といっても、現場は動きません。「再利用がどのようなメリットを生むのか」を、全員に理解させることができなければ、SOAは絵に描いた餅になってしまうでしょう。
同様に、再利用するサービスも初めのうちは専任チームが開発するべきです。日々の業務プロジェクトや運用管理で手がいっぱいのシステム部門に開発をやらせようとすれば、「なぜそんな面倒なことをやらなくてはいけないのか」と反発に遭うのが目に見えています。
では、どうやって現場の人間を説得するのか。
結局のところ、SOAの効果を実感してもらうしかありません。
例えば、最初のプロジェクトでAをつくり、次にこれをBで再利用するとします。Aに手を加えないままでは再利用が難しいので、通常はAをつくり替えて再利用します
今度は、CというアプリケーションとAをつなぐことになりました。Aは3度目の利用ですから、これまでに開発してきたB、Cとの共通部分が見えてくるはずです。
この共通部分が「小さな標準」になります。
おそらく4つ目のDを開発する際には、A、B、Cの共通部分を認識しながら、プログラミングが進められるはずです。
こうなればもう何も手を加えなくても、そのまま再利用可能になるはずです。この再利用のサイクルを実体験すれば、最初は「なぜこんな面倒くさいことが必要なのか」と考えていた現場のエンジニアも、その効果を実感するはずです。
多くの言葉を費やすより、小さくてもよいから成功体験を積んでもらうことが、現場の理解を得る最良の方法となるのです。
専門チームを組織し、再利用の精度をどんどん高めていくと、やがて新規開発は目に見えて少なくなり、3年も経過するころには、約60%の経費を削減できるはずです。SOAには、それくらいの「経営インパクト」があるわけですが、一般的に、その実現には3年から4年の長いスパンが必要になります。
このように、長期間にわたって現場に不信感を持たせず、再利用を実践するには、CIOやシニアマネジャーのコミットメントが絶対条件ですし、ガバナンスの高い組織を構築することも、非常に重要な要素です。
「成功するSOA、失敗するSOA」
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