「中小企業白書」斜め読み――山積する課題は乗り越えられるかIT Oasis(2/2 ページ)

» 2008年07月01日 09時29分 公開
[齋藤順一,ITmedia]
前のページへ 1|2       

地方ベンダーを活用するパッケージ

 さらに引用を続けていきたい。

 『継続的な事後評価を行っている企業では、全般的にIT投資の効果を得られやすい傾向があり、特に顧客満足度の向上や、製品・サービスの品質向上の面で、継続的な事後評価を行っていない企業と比べて効果が得られている傾向がある。したがって、事前の検討のみならず事後の評価を継続的に実施することが望まれる』

 IT投資評価は適当な方法論がなく、大企業でも実行しているところは多くはない。ITは機械の導入のように作業の代替えではなく、プロセス改善や組織改革など人間と関わってくるので、どこまでが人間のお手柄で、どこからがITの手柄なのか判別するのが難しい。評価の難しさもその辺にある。経営戦略実現のためにIT投資が行われるのであるから、経営戦略目標が達成されればそれでよしとする方が現実的ではないだろうか。

 IT人材についての記述もある。

 『「外注を活用すること等から、自社にIT人材は必要ない」としている企業が、従業員20名以下の企業では16%、従業員100名以下の企業では1割程度存在している。IT人材の充足度とIT活用の効果の関係を見ると、IT人材が確保されている企業の方が、IT活用による効果が得られている傾向が見られることから、IT人材の確保がITの有効活用にとって必要であると言えよう』

 中小企業のIT投資は何年かに1回なので、そのために専門的な人材を社内に用意することは合理的でない。IT投資を支援する外部専門家を活用する仕組みを作ることである。日常的な支援であれば、おおむね少しPCに詳しい従業員がいて、開発ベンダーが適宜サポートすれば対応は可能であろう。

 地方の情報システム会社については、こんな記述もあった。

 『地域における情報システム会社が十分に存在していると考えている企業では、情報システム会社に対する満足度が高くなっている。情報システム会社が多い地域においては、自社に適したシステム会社を選ぶことができるが、情報システム会社そのものが不足している地域では、自社に適したシステム会社を見つけることが難しいことが考えられる』

 地方の中小企業がIT投資を考えるとき開発を担当するベンダーがいないという話である。地方にもベンダーはいる。しかし、多くは地元の仕事ではなく大都市の大手ベンダーの仕事を請け負って生計を立てている。その方が中小企業相手のビジネスより安全、確実だからである。IT投資コンサルに上流工程を任せてベンダーは下流工程に専念するとか、中小企業向けのパッケージを用意するなどスキームを考える必要がある。

 今年の白書は「中小企業によるITの活用」の課題を列挙したという印象である。中小企業庁もいろいろなIT施策を実行するようである。来年は取り組み結果や成果が記述されることを期待したい。

過去のニュース一覧はこちら

プロフィール

さいとう・じゅんいち 未来計画代表。NPO法人ITC横浜副理事長。ITコーディネータ、上級システムアドミニストレータ、環境計量士、エネルギー管理士他。東京、横浜、川崎の産業振興財団IT支援専門家。ITコーディネータとして多数の中小企業、自治体のIT投資プロジェクトを一貫して支援。支援企業からIT経営百選、IT経営力大賞認定企業輩出。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ