OracleによるSunの買収は、とりわけオープンソースコミュニティーにとって悲しい出来事だ。Oracleがうるさい競合製品のMySQLを生かし続ける理由はない。
OracleはSun Microsystemsを殺そうとしている。
両社は4月20日朝、74億ドルの取引を発表した。両社を除くIT業界全体にとって、これは悲しむべき出来事である。喪服を着て、哀悼の意を表そうではないか。シリコンバレーで最も優秀な企業の1社が消えたのだ。シリコンバレーが1本の木だとすれば、Sunはその太い根の1本である。Sunの共同創業者のスコット・マクニーリー氏は、同氏を見習った多くのシリコンバレーの起業家と同じくスタンフォード大学出身である。マクニーリー氏をはじめとするスタンフォード大出身の起業家たちは、シリコンバレーの新興企業にインテリジェンスとスタイルを持ち込んだ。1990年代から2000年代初頭にかけて、Sunのクールな情熱がシリコンバレーの多数の新興企業にインスピレーションを与えたのだ。
マクニーリー氏は1982年2月、もう1人の共同創業者であるアンディ・ベクトルシャイム氏が開発したUNIXワークステーション技術をベースとしてSunを設立した。Sunはシリコンバレーの新興企業にとって、ビジネスに徹するとは何かを示す手本になった。同社は1990年代、大規模UNIXサーバによってエンタープライズコンピューティング分野に見事な進出を果たした。同社のサーバはIBMのメインフレームに対抗するとともに、Windowsでは対応できない本格的なソフトウェアを動作させることができたのだ。
SunはMicrosoftにも対抗し、法廷闘争を繰り広げた。Javaをめぐる訴訟に続き、1998年には独禁法違反でMicrosoftを欧州連合に提訴した。Java紛争ではSunは失ったものの方が多かったが、欧州ではMicrosoftに手痛い打撃を与えることができた。欧州の独禁法取締当局が2004年3月、他社のサーバソフトウェアがWindowsと連係するのに必要なプロトコルなどの情報をMicrosoftが開示しないのは、競争を阻害する行為であるという判決を下したのだ。
マクニーリー氏は1990年代、反Microsoftの急先鋒(せんぽう)として脚光を浴びた。同氏はMicrosoft、そしてビル・ゲイツ会長をあけすけに(ときとして口汚く)批判することで有名になった。マクニーリー氏の痛烈な批判(名言と評する人もいる)は、太陽フレアのように放たれた。マクニーリー氏がCEO職を辞して会長という肩書だけになった後は、ジョナサン・シュワルツCEOが反Microsoftの舞台に上った。シュワルツ体制の下、Sunはオープンソース開発者への接近を深め、Solarisのオープンソース版としてOpenSolarisをリリースするとともに、OpenOffice開発へのコミットを強化した。そして2008年1月にはMySQLを買収した。
オープンソースコミュニティーにとって、OracleとSunの取引は不確実性という影を投げ掛けるものだ――OracleはOpenOfficeをどうするのだろうか? Oracleのラリー・エリソンCEOは、大喜びでLAMP(Linux、Apache、MySQL、PHP/Python/Perl)の息の根を止めるつもりなのだろうか? Oracleがうるさい競合製品であるMySQLを生かし続ける理由はない。MicrosoftだけでなくOracleにとっても、このオープンソースデータベースは迷惑な存在なのだ。Microsoftのスティーブ・バルマーCEOにとっては、初めてエリソン氏に感謝する理由ができたわけだ。礼状を添えて花束の1つでも贈るべきではないだろうか。マクニーリー氏からMicrosoftとゲイツ氏に浴びせられた激しい敵意の末に、Microsoftは思ってもみなかった素晴らしい贈り物を突然与えられたのだ。Microsoftにとって、OracleによるSunの買収はオープンソースに対する大きな勝利につながる可能性がある。
バルマー氏とゲイツ氏は、IBMとの取引を破談にするのに貢献したマクニーリー氏にも感謝すべきだ。もしIBMが買収していたら、Microsoftにとっては厄介なことになっていただろう。SunのソフトウェアがIBMのエンタープライズ向け製品を強化する可能性があったからだ。IBMがMySQL、OpenOffice、Solaris、StarOfficeを、Microsoftをたたくこん棒として利用する可能性もあった。IBMは顧客から信頼され、素晴らしいサービスを提供している。Sunのオープンソースプロジェクトに対するIBMのサポートが拡大すれば、Microsoftにとっては困ったことになっただろう。
OracleはIBMとは非常に異なる企業である。企業文化という点ではIBMとSunは何千マイルも離れているが、OracleとSunの企業文化は何光年もの違いがある。企業をクマに例えれば、Sunはパンダで、Oracleはグリズリーだ。Oracleの強引なビジネス手法は、企業のIT部門の間で伝説になっている。この数年間にわたしが会った多くのITマネジャー(特に政府機関のITマネジャー)は、Oracleのソフトウェアは必要だが、だからといって同社が好きなわけではないと話している。SunはOracleよりも好かれている。それには多くの理由がある――優れた技術と企業文化、訓練の行き届いたリセラーチャネルなどだ。OracleはSunを買収することにより、政府や通信などの分野で多くの新規顧客にアプローチできるようになる。
Oracleは必ずSun(あるいは少なくとも、同社を際立たせ、シリコンバレーの多数の新興企業の手本となってきたもの)からその輝きを奪うだろう。Oracleが手に入れるものは、ほかの多くの利害関係者(競合企業、顧客、開発者など)が失うものである。柔和な物腰のシュワルツ氏は、大声で気性の激しいエリソン氏に言い負かされるだろう。エリソン氏が投げ掛ける巨大な重苦しい影は、Sunの輝きを奪うのには十分だ。
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