中国の検閲に反対するGoogle――「Google邪悪論」は消えるか

Googleは中国の検閲に反対する姿勢を打ち出したことで、「Googleが邪悪になっている」という説を幾らか覆すことができたかもしれない。だが、同社が中国から撤退すれば、同社に依存していた中国ユーザーには邪悪と受け取られるだろう。

» 2010年01月19日 08時15分 公開
[Clint Boulton,eWEEK]
eWEEK

 Google幹部は2009年、Googleが邪悪になっているという見方に対し、貴重な時間を割いて弁護してきた。同社に対しては、出版社を締め出して収益を得られないようにしている、同社が多くの新しいWebサービスを構築しているせいで、小さなWeb企業が太刀打ちできなくなるかもしれないといった批判が起きている。

 2010年に入ってからわずか2週間、Googleは中国への反対を打ち出すことで、こうした「Googleが邪悪になった」あるいは「Googleが邪悪になりつつある」という説の幾つかを払拭できたかもしれない。

 簡単に言うと、Googleは、中国のハッカーが同社のインフラに侵入し、Gmailアカウントの情報を盗み見たことが判明したとして、中国の検索市場から撤退するという脅しをかけている。同社は、Google.cnでの検閲をやめること、中国からの撤退を検討していることを明らかにした

 Googleの創設者らは、この決断をめぐって苦悩したようだ。Wall Street Journalの少なくとも2つの記事――レベッカ・マッキノン氏アンドリュー・ピープル氏の――は、Googleの決断を海外での言論の自由の重大な転機であり、人道主義的であり、もちろん、まったく邪悪ではないと称賛している。BusinessWeekのウィリアム・ペセック氏は、状況をまとめた記事を書いている。

 そしてジェフ・ジャービス氏の熱烈な記事からは、勝ちどきの声が聞こえてきそうだ。

 Google信者と言われても仕方がない。それは自分でもよく分かっている。だがわたしは、Googleの中国での行動については一貫して批判してきた。だから今回の件で、ますます信者になってしまった。Googleがついに中国の独裁政治に立ち向かい、言論の自由を支持したことに喝采を送る。

 Googleよ、わたしたちを永久に悪から救いたまえ。アーメン

 Googleはまだ、実際に中国のオフィスを閉鎖したわけではない(従業員が早めの休暇に入ったという報道もあるが)。BroadPoint AmTechのベン・シャクター氏は、Googleの撤退はもう決まっていると話す。「単に選択肢を見直すだけなら、こんな公式発表はしない」からだと同氏は言う。

 Googleにとって、中国からの撤退は忌むべき事態に思えるだろう。熱心に検索して、広告を見て、クリックしてくれるであろう3億6000万人のWebユーザーから離れるのは、かなりの勇気が必要になる。

 だが、こう考えてみたらどうだろう。中国からの撤退は、世界中で検索を支配するというGoogleの野望(Googleができるだけ多くのユーザーに自社の検索エンジンを使ってもらい、広告を見せたがっていることを簡単に言うとこうなる)の妨げになるが、もっと大局的なGoogleの利益を守ることにもなる。

 Googleは自社のクラウドコンピューティング環境への攻撃を好まない。Googleのクラウドへの攻撃は、実際には同社のユーザーへの攻撃だ。Googleは世界中のデータセンターの数千台のサーバに、ユーザーのデータを保管しているからだ。

 ニコラス・カー氏は、Googleのやっていることは正しいとべた褒めする見解に対して、Googleは単に言論の自由を支持しているだけではなく、自社のビジネスを守っているのだと指摘している。

 Googleが最も重視するビジネスの目標は、われわれにもっと多くの時間をインターネットに投じさせ、もっと多くの個人情報をインターネットに委ねさせることにある。特に、パーソナルコンピューティングの中心としてPCのHDDに取って代わりつつあるオンラインコンピューティングクラウドに、時間と情報を注がせようとしている。Webへの信頼が何らかの形で損なわれたら、われわれはネットワークから離れて、コミュニケーション、コンピューティング、データ保管・処理の別の方法を求めるだろう。そうなれば、Googleのビジネスは壊滅的な打撃を受ける。

 これはGoogleの中国に対するスタンスをほどよく冷静にとらえた見方だと思う。だがある意味では、Googleの立場は、同社の過去11年間のビジネスのやり方を象徴していると言える。

 Googleの中国での対応に、言論の自由を支持する人々や、ジャービス氏のようなジャーナリズムの専門家は喜んでいる。だがGoogleにとってもっと重要なのは、ユーザーと顧客、ひいては自社のビジネスを守れるということだ。

 これは自己利益の保護に人道主義のエッセンスを加えているのか、あるいは人権保護に自己防衛の要素を加えているのだろうか? その両方だ。Googleは常にその両方を重視してきた。同社は検索とWebサービスを提供し、ユーザーのデータを集めている。非常に共生的な関係だ。ユーザーを守れば、Google自身を守ることになる。

 それは悪だろうか? 中国を警戒している米国の人々にとっては、悪ではない。だが、コインに裏と表があるように、物事にはもう1つの面がある。31%(comScore調べ)の中国のGoogleユーザーは、Googleはあまり優しくないと思うだろう。Bloombergは次のように記している。

 Googleが撤退すれば、「中国のインターネットユーザーにとって悲しい結果」になるだろうと北京のEconomic Observer紙は指摘している。中国にGoogleが存在することは、同国が「オープンで自由」な国というイメージを維持する一助となっていると同紙は伝えている。

 Bloombergはこうも伝えている。

 Googleは社会的責任のある企業になりたいのなら、中国を「見捨てる」べきではないと、Shanghai Morning Post紙には記されている。「悪貨が良貨を駆逐する世界で、良貨があきらめてはいけない」と同紙の社説には書かれている。

 悲しいかな、米国のほとんどの人にとっては、Google撤退に不満を訴える中国の国民は、池がジメジメすると愚痴を言うカエルのように見えているかもしれない。

 つまり、「(中国人は検閲に)もう慣れていたんじゃないのか?」というわけだ。これはいささか厳しい見解だ。それでは事態を正すことにはならないし、Googleの中国撤退が邪悪と受け取られることは防げないかもしれない。

 Googleが中国から撤退すれば、民主主義と言論の自由を支持する米国では称賛されるかもしれない。だがそれは、代替選択肢としてGoogleに依存していた中国のユーザーには邪悪と受け取られるだろう。

 どちらにしても、Googleはすべての人を満足させることはできない。それは、どん欲な大企業について回る問題の1つだ。

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