IBM、温水でも冷却できるエコなスーパーコンピュータ

IBMのスーパーコンピュータ「Aquasar」は、最高セ氏60度の温水でも冷却できる水冷システムを搭載している。

» 2010年07月08日 13時38分 公開
[Jeffrey Burt,eWEEK]
eWEEK

 米IBMは、温水でも冷却できる水冷式のスーパーコンピュータを完成させた。

 IBMがスイス連邦チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)に納品したこのシステム「Aquasar」には、新しい冷却システムが搭載されている。

 IBMが7月2日に発表したところによると、Aquasarは従来型の空冷式マシンと比べて消費エネルギーを最大40%低減でき、また、廃熱を大学内の建物の暖房に利用することでシステムの二酸化炭素排出量を最大85%減らせるという。

 IBMの幹部によると、Aquasarは同社のスイスとドイツのエンジニアが「First-Of-A-Kind(FOAK)」プログラムの一環として、開発に取り組んできたものという。FOAKプログラムは、顧客のビジネス上の問題を解決するためにIBMの研究員と顧客が協力して研究するという取り組みだ。

 今回のケースでは、解決すべきは電力消費量と冷却の問題だった。IBM幹部によると、平均的な空冷式データセンターの場合、消費エネルギーと二酸化炭素排出量の最大50%は、コンピュータ自身ではなく、コンピュータを冷却するためのシステムによって生み出されているものだという。

 AquasarのクラスタはIBMのBladeCenterシリーズのブレードシステムで構成されており、一部には温水対応の新しい水冷システムが搭載され、一部には空冷式が採用されているという。Aquasarは既に完全に稼働できる状態に整っている。

 全体では、Aquasarは3つのBladeCenter Hシャーシで構成され、全部で33台のBladeCenter QS22サーバと9台のBladeCenter HS22サーバが収容されている。BladeCenter QS22サーバはPowerXCell 8iプロセッサを2基ずつ搭載し、BladeCenter HS22サーバはIntel Xeon 5500シリーズ(Nehalem EP)チップを2基ずつ搭載している。

 そして、3つのBladeCenter Hシャーシのうち2つが水冷化され、全部で22台のBladeCenter QS22と6台のHS22サーバが水冷式となっている。

 各システムは、プロセッサごとに液冷装置を備え、双方向にパイプラインが取り付けられている。液冷装置はプロセッサに直接取り付けられており、プロセッサは最高セ氏60度(華氏140度)の温水でも冷却できる。またIBMによると、このシステムはプロセッサを高温限界のセ氏85度(華氏185度)未満に保てるという。

 Aquasarで使われる水は、通常の液体冷却システムで使われる水よりも温度が高い。IBMによると、水は空気よりも4000倍効率的に温度を下げることができ、熱移動も効率的に行えるという。

 この閉回路型の冷却システムでは、プロセッサによって熱せられた水は受動的熱交換器を通過して除熱される。その熱はその後、大学の暖房設備に送られ、建物の暖房に用いられる。

 Aquasarは、「液体冷却されたスーパーコンピュータからの廃熱の直接利用:省エネ、低排出・高性能のコンピュータおよびデータセンターの実現に向けて」と呼ばれる3年間の研究プログラムの一環で開発されたもの。この研究プログラムには、チューリッヒ工科大学とIBMチューリッヒ研究所のほか、スイス連邦ローザンヌ工科大学(ETH Lausanne)も参加している。

 IBMによると、Aquasarの演算能力は6T(テラ)FLOPSに達し(1TFLOPSは浮動小数点演算を1秒間に1兆回できることを表す)、消費電力1ワット当たりの演算能力は約450MFLOPSという。

 また同社は、大学内の建物の暖房に活用できる電力量を9キロワットと見積もっている。

 「Aquasarでは、カーボンニュートラルなデータセンターの実現に向けた重要なマイルストーンを達成できた」とIBMチューリッヒ研究所の先端サーマルパッケージング部門でマネジャーを務めるブルーノ・ミシェル氏は声明で語っている。「我々の研究の次のステップは、この冷却システムのさらなる最適化に向けて、その性能と特性に重点的に取り組むことだ。性能は広範なセンサーシステムによって計測することになるだろう」(同氏)

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