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JP1は物理と仮想の統合運用環境をもたらすか?JP1 V9.1 Review

仮想化への急速なシフトはメリットとともに運用管理上の課題も生み出す。どのようにリソースプールを運用するのか? 構成変更時の物理と仮想のマッピングをいかに効率化すべきか?――これらを解決するのが、統合運用管理ツールに求められる役割だ。

» 2010年08月06日 08時00分 公開
[富永康信(ロビンソン),ITmedia]

(このコンテンツは日立「Open Middleware Report vol.51」をもとに構成しています)

 リーマンショック後の世界的な景気低迷がようやく底を見せ始めたころ、突如明らかとなったギリシャ財政危機によるユーロ経済圏の株価・為替の変動リスクへの懸念。持ち直しの兆しを見せ始めた国内のIT投資も再び経済合理性が厳しく問われるようになり、2010年後半も投資の抑制傾向は続くとする見方も多い。

 だがその危機感が、コスト削減を目的としたIT基盤仮想化の流れを加速する一因となっているのも、確かなようだ。IDC Japanが2010年5月に発表した「国内仮想化サーバ市場予測」によると、2009年の国内仮想化サーバの出荷台数は前年比9.2%増の6万7813台となり、2009年から2014年までの年間平均成長率は15.9%と、増加傾向にある。

 部門ごとにサイロ化したシステムを見直し、センター集約やサーバ統合を通じリソース運用を柔軟化するとともに、コストの最適化も期待されている仮想化。だが一方で、急速な仮想化はメリットだけでなく、運用管理上のさまざまな課題も生み出すことが明らかになっている。

仮想化環境のリソースプールをいかに運用する?

 その1つが、ITリソース管理の問題である。従来の運用管理に加えて、仮想化環境では新たにシステムリソースを柔軟かつ効率的に分配するためのリソースプール運用が不可欠だが、台帳などを使った手作業によるリソースの検索・予約や、異なるツールを使い分けながらのサーバ配備、実績確認作業は大きな手間となっている。

 このような状況に対応するため、日立製作所(以下、日立)は運用管理ツール「JP1」のV9.0において、仮想化に不可欠なプール化によるITリソースの効率的利用や、運用管理部門における運用業務の効率化を図った。今回の「JP1 V9.1」へのバージョンアップでは、運用サイクル全般にわたるITリソースの一元管理による最適化と、利用部門も含めた運用業務の効率化をテーマにさまざまな機能を強化している。

 JP1 V9.1の中でも注目すべき新製品が、ITリソースの一元管理を実現する「JP1/IT Resource Management」(JP1/ITRM)である。空きリソースの検索、リソースの予約、サーバの配備、使用実績の確認と見直しといった一連の運用サイクルをオールインワンで提供するほか、配備をする上で必要となるプロビジョニング(保守予約)や準備期間・実利用期間の把握といった作業も、ビジュアルな管理画面を利用することで運用負荷軽減を図っている。また、各種のOSや仮想化ソフト、仮想化・非仮想化が混在するヘテロな環境でも統一したオペレーションで管理できるのもJP1/ITRMの特徴だ。

リソースプールの運用サイクル全般にわたる作業をオールインワンで実現する「JP1/IT Resource Management」

システム管理者のリソース把握を支援

 さらにJP1/ITRMでは、中長期でのリソースの削減・補充計画を支援する機能を搭載している。現在のリソース使用状況は把握できても、将来必要となるリソースを予測することは難しい。過去の使用実績と今後の利用計画の双方から最適なリソース保有量を把握することは、システム管理者の大きな助けになるはずだ。

 仮想化のメリットとして期待される柔軟な構成変更にも対応している。仮想化環境におけるITリソースの追加・変更は、エージェントのインストールや設定作業が求められるなど、管理者にとっては大きな負担となっていた。そのためJP1/ITRMでは、運用サイクルのすべてにおいてエージェントレス管理を実現した。最低限の設定だけでサーバ、ストレージ、スイッチなどのITリソースを自動検出し、リソース使用量の実績記録を確認する機能を提供する。

構成可視化と影響分析を行う「JP1/IM-Universal CMDB」

 システム運用管理においては、構成変更時の作業が常に問題となる。リソースの共有でシステム構成が複雑になるほど、変更による影響範囲の把握に時間がかかる。サーバとアプリケーションの関連図を手作業でメンテナンスしている企業などは、仮想化で頻繁に構成変更が行われると、それらの相関関係を追うのは不可能に近い。

 その課題を解決したのが、構成可視化と構成変更の影響分析を行う「JP1/IM-Universal CMDB」である。システム構成を自動で検出しビジュアルに可視化するとともに、ハードウェア/ソフトウェアの構成変更時の影響範囲を事前に把握することで、変更作業を容易にする。また、JP1のジョブ管理製品「JP1/AJS3」と連携することで、クモの巣のように複雑に絡み合った業務(ジョブネット)であっても、影響範囲を正確に把握し、支障が出ないことを確認した上で安全に作業できる。

業務担当者もジョブを実行できる「JP1/AJS3-User Job Operation」

 また、仮想化導入後の課題として、管理業務の集中がある。サーバ集約やシステム統合で効率化は図られたものの、集約によって1人の運用管理者に複数業務が集中することになる。これにより、運用管理者が各業務部門からの要求に対応するために要する負担が増加する可能性がある。また業務担当者からは、サービスレベルが低下しているように感じられてしまう。

 そこでJP1V9.1では、業務担当者が直接ジョブ操作を実行できる「JP1/AJS3-User Job Operation」を新規にラインアップした。運用管理者が各ジョブネットを公開し、業務担当者に必要な管理権限を付与することで、担当業務だけを現場でフレキシブルに実行・監視することが可能になった。インタフェースはアイコンやメニュー画面を分かりやすくデザインし、運用管理が不慣れな業務担当者が操作しやすいように配慮したものになっている。

 そのほか、今回のV9.1のリリースに合わせて、JP1はユーザーの各種要望に応えるためのさまざまな機能拡張を行っている。その一例が、Hyper-Vを制御するマイクロソフトのSCVMM(System Center Virtual MachineManager)を製品化した「JP1/IM-SCVMM」だ。これは新たに仮想化に取り組む企業に対し、Windows環境でのスモールスタートを支援するもの。ITRMとの連携やほかのJP1の統合管理製品との親和性を兼ね備え、単一の仮想化環境での効率的な運用を素早く開始できる。

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