システムのフルスタック提供は、クラウドコンピューティングでも大きな優位性になるOracle OpenWorld 2010 Report

3日目のキーノートセッションに登壇したトーマス・クリアン氏は、Oracleのクラウドコンピューティングの優位性を、運用管理、セキュリティ、変更容易性などの観点から説いた。

» 2010年09月22日 15時00分 公開
[谷川耕一,ITmedia]

 「Oracle OpenWorld 2010」3日目となる21日のキーノートセッションステージには、製品開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのトーマス・クリアン氏が登壇。米Oracleがクラウドコンピューティングの領域で何を行っているのかについて講演した。

Oracleのクラウドコンピューティングの優位性について語るトーマス・クリアン氏

 「クラウドコンピューティングのとらえ方は、人によってさまざま。Oracleは、顧客の考えているさまざまなクラウドを実現していく」とクリアン氏は言う。そのためには顧客が何を考えているかを知ることが重要で、その結果として、ビジネスアプリケーションやミドルウェアをサービスとしてネットワーク上で提供することになると説明する。そして、実際にクラウドコンピューティングを実現してビジネスを成功させるためには、常に技術的な課題に対処し続けていく必要も忘れてはならないと指摘する。これは、単にクラウドと呼ばれているサービス上にシステムを移行しただけではビジネス上の問題は解決せず、むしろ新たな問題も発生しかねないということでもある。

 Oracleが勧めるクラウドコンピューティングの技術的な方向性は、小さなものを積み重ねるよりも、むしろ大きなもの使った方がいいとのこと。つまり、発表したばかりの「Oracle Exalogic Elastic Cloud」と「Oracle Exadata Database Machine」を組み合わせて使った方がいい、というのがOracleの主張だ。「ExalogicとExadataを使えば、OLTPもデータウェアハウスも1つのシステム環境設定で実現できる。これにより運用管理は極めて楽になる」とクリアン氏。ExadataやExalogicなら、スケールアップはもちろんスケールアウトも可能であり、柔軟な拡張性も持っているのでクラウドコンピューティングの要件には最適だと自信を示す。

クラウドコンピューティングで重要な運用管理性

 そしてデモンストレーションを交えながら、Oracleが考えるクラウドコンピューティングに必要な要件について順次解説を行った。まず、クラウドコンピューティングにおいては、運用管理が重要な要素だとクリアン氏は指摘する。クラウドコンピューティングでは、ハードウェアやソフトウェアなどさまざまなものがネットワーク越しで数多く動くことになる。それらをなるべく統一して一元的に管理できなければ、せっかくクラウドコンピューティングに移行しても運用管理の手間が増大しメリットを享受できない。

 Oracleには「Oracle Enterprise Manager」という統合的な運用管理ツールがあり、ハードウェアからミドルウェア、アプリケーションに至るすべてを、1つで管理できる。「重要なのはビジネス的な要件と、システム的な要件を一体化して管理できること」とクリアン氏。つまり、CPUが正常に稼働しているかどうかが重要なのではなく、ビジネスがうまく処理できているかどうかが企業にとっては重要だということだ。

 CPUの処理能力に余裕があるにもかかわらず、要求するビジネス処理に時間がかかるようでは役立たず。逆にある程度システム的な負荷が高くてもビジネスの処理が正常に行われているならば、そのシステムにはあまり問題はない。Oracle Enterprise Managerでは、システムの状態を監視するだけでなく、あるアプリケーションのレスポンスタイムなどビジネスの指数を設定することが可能だ。これにより、設定したビジネス指数をもとに監視を行い、ビジネス上の問題があればそこから原因となるシステム上の問題をチェックするといったことができる。「システムとアプリ両方の稼働を監視する必要がある。そして、ビジネスの要件からシステムの状況を見て、適切な管理を行えるかがクラウドコンピューティングでは重要になる」とクリアン氏は言う。

クラウドコンピューティングに必要なセキュリティ

 クラウドコンピューティングで顧客が気になるのは、ネットワークの向こう側にあるデータは適切に保護されているのか、ユーザー認証はきちんとできていて適切なアクセスコントロールがなされているのかということ。これらを実現するために、Oracle製品には統合的な認証の仕組みと詳細レベルの一元化されたアクセス管理機能が備わっている。

 今回さらにセキュリティ面での強化機能として発表されたのが、「Oracle Database Firewall」の機能だ。Oracle Databaseとアプリケーションサーバの間に置かれ、SQLでのアクセスを監視し制限するものとのこと。ステージ上では実際にこの機能のデモンストレーションが行われ、フィルタ機能を設定し不正なSQLアクセスを監視し、検知するとブロックできる様子が示された。さらに、そこから誰がそれを発行したのかを探し、そのユーザーからのアクセスすべてを阻止する操作もすぐにでき、以降そのユーザーが何らかのSQLを発行してもデータが見えなくなる様子も示された。

 Oracleのセキュリティ管理は、セキュリティ管理者のダッシュボードで一元的に管理できる。課題を発見するとBIでドリルダウン分析を行うように、その詳細情報に到達することが可能だ。さらに「Oracle Analytics」を使えば、簡単かつ素早くセキュリティ監査の報告書も提出できるとのこと。このようなセキュリティ面においても、システムに必要なスタックをトータルで提供している強みがOracleにはあるとのことだ。

クラウドコンピューティングに必要なアプリケーションの変更容易性

 クラウドコンピューティングに移行したとしても、ユーザーの要望によりさまざまな変更がアプリケーションには発生する。データ項目の追加があったり、ルールやプロセスを変更したいこともあるだろう。そのたびに開発チームに依頼してコーディングをしていたのではクラウドの迅速性は発揮できない。Oracleではミドルウェアのアーキテクチャを変えることでこれらの要求に対応しているとのこと。

 「Oracle WebCenterの機能を使えば、ユーザーが自由にユーザーインタフェースを変更できる。さらにFusion MiddlewareのComposer機能を使えば、ユーザーレベルでデータモデルを変更することも可能だ」(クリアン氏)

 Composerを使うと、プログラミング操作なしでカスタムオブジェクトを追加できる。これによりデータ項目の追加といったことがビジネスユーザーでも可能となる。カスタムオブジェクトはプロセスも変更できるので、承認ルートを変更して優良顧客用に素早く決済を完了するといった例外プロセスの追加もGUIの操作で簡単に行える。その様子はデモンストレーションで示された。これらのアプリケーションの変更は、メタデータの変更のみで実現しているとのこと。プログラムコードを生成して追加するというものではなく、Oracleがもともと用意しているメタデータとは完全に分離した形で管理できるので、システムのアップグレードの際にも変更部分が影響を及ぼすことはないとのことだ。

クラウドコンピューティングのデータを取り出す

 クラウド上にあるデータにどのようにアクセスし、どのように意思決定に活用すればいいのか。クリアン氏は、そのためにはどの視点から分析するにしても同じデータにアクセスできること、そしてそれがWebブラウザから容易に行えること、得られた結果をユーザー間でコラボレーションする環境があることが重要だと説明する。

 1つ目の「同じデータにアクセスする」ためには、Oracleには仮想的にデータを統合する機能がある。この機能を使えば、管理者はさまざまなデータソースをユーザーが見やすい形に簡単に組み上げられるとのこと。適宜データソースを階層化するといったことも可能で、その際に開発者に依頼する必要もない。結果はすぐにユーザーのダッシュボード画面に権限に応じて表示できる。この画面は、WebCenterの機能を使うことでiPhoneなどのモバイルデバイス用にも自動的に変換でき、どこからでも参照可能になるとのことだ。

 「せっかく得られた分析の結果を切り張りしてメールで関係者に送るのはスマートではない」とクリアン氏。Oracleでは、分析結果を活用するコラボレーションには、ソーシャルコラボレーション機能が用意されているとのこと。これを使うことで情報が分散することなく、容易に共同作業が可能になる。

 セッションの最後には、先日IBMから移籍してOracle On Demandの部隊の責任者となったジョアン・オルセン氏が登壇し、Oracleのクラウドコンピューティングビジネスの優位性についてコメントした。「Oracleはインフラからアプリケーションに至るすべてを網羅しているので、クラウドでも統合した価値を提供できる」とオルセン氏は言う。さらにOracle On Demandのサービスはすでに10年以上にわたり提供しており、「Oracleにはクラウドでのサービス経験が10年以上ある」とその実績を強調した。残念ながら、期待されていたようなOracleがパブリッククラウドのサービスに新たに参入する、というような発表は行われなかった。

ジョアン・オルセン氏(右)とトーマス・クリアン氏

企業向け情報を集約した「ITmedia エンタープライズ」も併せてチェック

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ