久々に日本発の技術の話をオルタナティブ・ブロガーの視点

電気自動車普及の鍵は、充電技術にある。バッテリー技術と急速充電をセットにした電気自動車の開発は日本再生の鍵になるかもしれないと、オルタナティブ・ブロガー 岸本善一氏は考えました。

» 2010年09月30日 14時17分 公開
[岸本善一,ITmedia]

(このコンテンツはオルタナティブ・ブログ「ヨロズIT善問答」からの転載です。エントリーはこちら。)

 最近日本を取り巻くニュースは面白くないものが多い。はっきり言って不愉快なものが多い。そこで、気分を変えるために少し気持ちが高揚する話をする。有望な日本発の技術の話だ。

 9月初め日本に行き、あちこち取材をした。そして電気自動車の急速充電は特に素晴らしいと思った。米国ではTesla社がいち早くスポーツカータイプの電気自動車を販売しているが、その価格と充電時間(通常8時間、急速でも1時間程度)のために一部の層にしか受け入れられていない。

 電気自動車の普及には、バッテリーがどれだけもつかと充電インフラがどの程度あるのかが大きな鍵となる。今朝車にガソリンを入れてきたが、かかった時間は全部でせいぜい10分程度だろう。この辺りのガソリンスタンドはほとんどセルフサービス形式になっており(多分、米国の多くの場所でもそうだろう)、待ちがなければそれ程時間はかからない。

 日本で東京電力が中心になって運営している「チャデモ」という協会は、急速充電の技術の振興を行っている。完全に空っぽの状態から満タンにするまで大体30分以内というものだ。しかし現実にはバッテリーが完全に空になってから充電することはあまりないし、もし満タンでなく80%程度の充電でもよければ、所要時間は10〜15分程度だそうだ。さらに、5分程度しか時間がなくても、その充電時間で40kmは走れるそうだ。もちろん、長い距離走れることにこしたことはないが、日本ならこれで十分かもしれない。以前書いた『EVの時代はいつ来るのか』という話は、たぶんに米国の状況をベースにしている、日本には当てはまらないようだ。そのうち、『日本版の電気自動車の時代はひょっとすると思ったより早く来るかもしれない』を書くつもりだ。

 日産自動車が電気自動車「リーフ」の販売をこの秋開始する。充電時間は通常の100Vで8時間程度、急速充電も可能だ。気になる急速充電は日本では300〜350Vを必要とし、現在は特別な場所にしかないが、日産は全国のディーラーに充電所を設けて対応するという。2000カ所に通常充電所、200カ所に急速充電所を設置し、1回のフル充電で110〜120km走る。これはひょっとするとひょっとする。

 急速充電技術を標準化して推進しようとする試みは、世界中でチャデモのほかにあまりなく、北欧のどこかでやっている程度だ。米国でもGMが「ボルト」を販売する予定だが、うわさはあまり聞こえてこない。一般的に走行距離が長い米国では、1回の充電での走行距離が伸びないと苦しい。サンフランシスコとサンホゼの間を通う人は多いのだが、片道60km強なので往復すると120kmだ。今の走行距離だと、1回のフル充電で行って帰って来るのは無理かもしれない。これではやはり不便だ。高速道路の途中に充電所を設けてもやはり面倒なので、よほどの新し物好きでもないと実際に利用しないだろう。

 バッテリー技術とこの急速充電をセットにした電気自動車は、日本再生の鍵になるのだろうか。こういった技術にはレアアースが不可欠だという。この資源は非常に偏在しており、今後の資源の確保が一段と困難になると予測される。

 どこかのTV番組で聞いた話で確認したことではないが、現在の日本の技術陣は、「レアアースがないなら、最低限の量で何とかしよう」、または「まったく違う方法でこういった技術をサポートしよう」という気概に満ちているそうだ。それが本当に可能かどうかは分からないが、日本に資源がないのは何も今に始まったことではない。もし先人たちが、資源がないから戦えない、もう駄目だとあきらめていたら、今の日本はなかった。先人たちに比較してヤワになったとはいえ、まだまだ日本も捨てたものではない。困難が大きい程、技術屋は燃える。

 専門馬鹿と言われる技術屋さん、今こそあなたのチャンスです。わたしは信じる。日本はできる。あなたがやらずにほかの誰がやるのか。

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