震災を乗り越えるために経営者・リーダーに求められるチカラこころの処方箋(2/2 ページ)

» 2011年04月21日 11時30分 公開
[竹内義晴(特定非営利活動法人しごとのみらい),ITmedia]
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スタッフをケアする「話の聞き方」

 スタッフの話を聞く際のいくつかのポイントについてお知らせします。

 アドバイスはあと――まずは、話を全部聞く

 経験な豊富なリーダーほど、さまざまな難局を乗り越えてきた経験をお持ちです。だからこそ、スタッフができるだけ早く不安やネガティブな思いから立ち直れるように、相手の話が終わる前に、「そういう場合は○○にするんだよ」などの考え方や解決方法などをアドバイスしたくなることもあるでしょう。

 では、スタッフはどのように思っているのでしょうか。不安に思っていたり、ネガティブな気持ちに引っ張られたりしているときほど、アドバイスの前に、まずはその気持ちを分かってほしいと願っているのではないでしょうか。

 人は思っていることを口に出すだけで、気持ちがすっきりするものです。スタッフの話をさえぎらず、まずは思いをすべて聞いてみてはどうでしょうか。話の切れ目で、「それで全部言い尽くした?」「他に言いたいことはない?」などと伝えれば、「全部話してもいいのかな?」と遠慮を取り払うことができます。

 「話を聞いた分だけ、相手も聞いてくれる」といいます。アドバイスする必要があるときは、話を全部聞いた後にすると、スタッフもアドバイスを受け取ってくれるでしょう。

 「何が言いたいのか」――話を確認しながら聞く

 スタッフの話を聞く際、相手が言っていることを確認しながら聞くと、「あなたの言いたいことはちゃんと伝わっているよ」「興味を持って聞いているよ」というメッセージを伝えられます。

 例えば、「最近、何だか先行きが不安なんです」というスタッフの言葉に「そうか、先行きが不安なんだね」と、「合いの手」を入れるように、言葉を繰り返したり、相手が言いたいことを要約して確認したりするイメージです(この技法は、相手の言いたいことを繰り返すので「オウム返し」や「バックトラック」などと言われています)。自分が発した言葉を相手から伝えられることで、スタッフは、自分の思いを再認識できる効果もあります。

「バックトラック」を使った話の聞き方例

 相づちやうなずきを意識する

 相づちやうなずきは、私たちが思っている以上に効果的に「あなたの話を聞いていますよ」というメッセージを伝えられます。「○○さんは話を聞いてくれている」という安心感も与えられるのです。

 雰囲気を相手に合わせる

 「類は友を呼ぶ」といいますが、私たちは自分と同じような雰囲気の人を無意識に好む傾向があるようです。スタッフがゆっくり話すタイプならこちらもゆっくりと、声が小さめならこちらも小さめになど、雰囲気を相手に少し合わせます。簡単なポイントですが、話しやすい場を作ることができます。

感謝とねぎらいの言葉を

 私もそうなのですが、日常の生活で素直に感謝やねぎらいの言葉などを恥ずかしくてかけられないのが日本人の気質です。皆さんも「あのとき、もし、この思いを伝えていれば……」という経験を一度ぐらいはしているのではないでしょうか。

 今は非日常です。今こそ、日常では言いづらい感謝の気持ちを、いつも一緒に働いているスタッフに伝えてみてはいかがでしょうか。言われる側も、大変なときほど、感謝やねぎらいの言葉はこころに染み渡ります。

 「被災者の方のためにみんなでがんばろう!」――チームをまとめるために、被災者への心配りを合言葉にすることも大切ですが、「いつも会社のために働いてくれて、本当にありがとう」「大丈夫! こんなときだからこそ、気持ちを1つにして難局を乗り切ろう」――一緒に働いているスタッフや仲間に向けたねぎらいと大丈夫の一言が、チームを1つにまとめます。

 不安なときに、目の前に希望の灯りをともしてくれたリーダーのことは、きっと生涯忘れることはないでしょう。


すべての経営者・リーダーの皆さまへ

 最後に、とても大切なお話をしたいと思います。

 ここまで、スタッフのメンタルケアについてお話してきました。でも、見通しの立たない難局に、今、最もストレスフルな状況にいるのは、経営者やリーダーの皆さまではないでしょうか。

 「社員を路頭に迷わせるわけにはいかない」――必死に打開策を考えても明確な答えが見出せない中、スタッフに悩みを打ち明けるわけにもいかず、暗い顔もできない経営者やリーダーの皆さまのことを思うと、本当に胸が苦しくなります。この難局を乗り越えるためには、皆さま方のリーダーシップと、スタッフの気持ちを思う大きなこころが必要です。けれども、会社やスタッフのことを思うあまり、ご自身の気持ちを脇に置き、がむしゃらにがんばっている方もいますよね。

 社員の雇用を守り、経済を回そうと一生懸命働いているのに、ときには、矢面に立ち、社会から批判を受けなければならない方もいらっしゃるかもしれません。思いが伝わらないと、本当にツライと思います。だから、どうか「ご自身の気持ち」も、大切にしてください。

 今、皆さま方のチカラが必要なときです。もし、どうにもならないときは、相談していただきたいと思います。一緒にがんばりましょう。日本を支えているすべての経営者・リーダーの皆さまのがんばりに、感謝の気持ちを捧げます。

著者プロフィール:竹内義晴(たけうちよしはる)

 竹内義晴

特定非営利活動法人しごとのみらい理事長。ビジネスコーチ、人財育成コンサルタント。心理学トレーナー(米国NLP協会認定NLPトレーナー)

自動車メーカー勤務、ソフトウェア開発エンジニア、同管理職を経て、現職。エンジニア時代に仕事の過大なプレッシャーを受け、仕事や自分の在り方を模索し始める。管理職となり、自分が辛かった経験から「どうしたら、ワクワク働ける職場が作れるのか?」と悩んだ末、コーチングや心理学を学ぶ。ちょっとした会話の工夫によって、周りの仲間が明るくなり、自分自身も変わっていくことを実感。その体験を基に、仕事で疲れたこころを充電し、仕事のスキルアップや成長感得られる体験を通じて「しごとを楽しくする」NPO法人を設立。コーチングやカウンセリング、チーム作りの指導を行っている。

著書に『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』がある。
Twitterのアカウントは「@takewave」。


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