富士通は、「SAP Partner Globalization Program」をフル活用し、ERPの統合によってグローバルビジネスの見える化を実現したい顧客企業を支援する。「技術だけではシステムはつながらない。業務プロセスに踏み込んで顧客のグローバル化を支援していきたい」と小野民需ビジネス推進本部長代理は話す。
富士通は、昨年秋にスタートした「SAP Partner Globalization Program」をフル活用し、SAP ERPの統合によってグローバルビジネスの見える化を実現したい顧客企業を支援する。既に東証1部上場企業が複数参加するプロジェクトが進行中で、2012年3月にはSAPのドイツ本社や上海ラボでの検証にめどがつくという。
企業のグローバル化というと、もはや生産拠点の展開にとどまらないのはご存じのとおりだ。商品を販売する市場として、日本以外の国や地域は極めて大きな割合を占めている。製造業においては、海外売上が8割、9割というのも不思議ではない。そして、企業の情報システムもグローバル化するビジネスを支える神経系として新たな役割が期待されている。
そんな中、IT主導による世界規模でのビジネスの見える化や業務プロセスの標準化によってグローバル経営の質を高める動きが目立ち始めている。しかし、これは裏を返せば、海外に拠点が出来てもシステムは本社と異なるものを間に合わせに導入したり、M&Aによって傘下に入ってもシステムは従来からあるものを使い続けたり、と課題を先送りしてきた結果でもある。
もちろん理由がないわけではない。日本の企業は、固有の商習慣の中、仕事のやり方やものづくりを独自に研ぎ澄まし、管理の水準も高いものが要求された。情報システムにはそうしたノウハウが詰め込まれ、個別にあつらえられた。このため、世界のベストプラクティスが盛り込まれたSAPのERPでさえ、そのままでは通用しなかった。時間とコストをつぎ込み、高度にカスタマイズしなければ、納得してもらえなかった。まさに「ガラパゴス」といえる。残念ながら多くの日本のSAPユーザーは、維持費がかさむばかりではなく、新たな機能がリリースされてもその恩恵をすぐには享受できないできた。
「今こそ世界の標準で業務プロセスを組み直すとき。10年以上にわたった空白を一気に取り戻したい」と話すのは、富士通で民需ビジネス推進本部長代理を務める小野恊(ちから)氏。
SAPのグローバルパートナーである富士通自身も、グローバルではSAP ERPとカスタムシステムが混在しており、それらを統合する必要に迫られているという。
「海外進出が加速する中、日本企業の業務プロセスもグローバル化しつつある。生産方式、会計方式も世界に歩み寄りつつある時代だ。ITソリューションプロバイダーとして、こうした顧客企業の変化に対応したい」と小野氏。
かつてシステム統合というとEAIやSOAといった3文字略語が躍ったが、結局のところプロジェクトの多くは業務プロセスの複雑さに立ち往生してしまった。
「業務プロセスの標準化から始めなければ、システム統合は壁にぶち当たってしまう。理想主義者と映るかもしれないが、ここには果敢に取り組みたい」(小野氏)
SAPジャパンもこうした日本のパートナーの取り組みを後押しし、海外展開する顧客の支援を強化できるよう「SAP Partner Globalization Program」をスタートさせている。
「日本のやり方を海外でも踏襲しようというよりは、現地発のやり方でグローバル経営のスピードを高めていこうという企業も現れている」── 小野氏の下でERPビジネスセンターを統括する村松勝氏は、さらに企業顧客の変化を感じている。
とはいえ、どちらかのERPに一気に統合してしまうのは現実的ではない。
ERPビジネスセンターでソリューションを担当する前村和史シニアディレクターは、「ものには順序がある。先ずはITインフラを共通化し、日本のERPのインスタンスと海外のインスタンスをどうつなぐかを考えるべきだ」と話す。
これまでのSAP ERPでは、異なるインスタンス、異なるテンプレートをつなぐことが難しかったが、「SAP Best Practices for Business Network Integration」という名称で、本社、子会社、およびパートナーなどをつなぐ、「財務」「販売とサプライチェーン」「企業間連携」「マスターデータ」といったあらかじめ設定されたビジネスプロセスやツールなどの提供が始まっている。SAPでは中小規模の事業者向けに「SAP Business One」と呼ばれるビジネスアプリケーションも用意しており、これとの連携も可能という。
富士通では、ドイツのSAP本社や上海ラボのリソースを活用し、例えば、本社と海外に展開する子会社の異なるSAP ERPがきちんとつながるのか、検証プロジェクトを進めているという。このプロジェクトには、製造業の複数の顧客にも参加を打診しており、海外拠点にはERPをサービスとして利用してもらうプライベートクラウド方式も想定、迅速に展開できる海外子会社のERPと本社ERPが連携できるかどうかを見極めようとしているという。
小野氏は「技術だけではシステムはつながらない。業務プロセスに踏み込んで顧客のグローバル化を支援していきたい」と話す。
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