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先入観を捨てよ! 中小企業がサーバ仮想化で生み出す効果とはITRのシニアアナリストが解説(2/2 ページ)

» 2013年03月21日 10時00分 公開
[生熊清司(ITR),ITmedia]
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サーバ仮想化でコストメリットを得るためには

 サーバ仮想化の目的としては、「既存リソースの有効活用および余剰リソースの削減」「設置スペースおよび消費電力の削減、運用管理コストの削減」「バックアップやフェイルオーバーなどの障害および災害対策」、「旧資産の延命」、「開発環境の確保」、「柔軟なサーバリソースの活用と迅速な配置」などが挙げられるが、多くの仮想化プロジェクトで最も期待されているのは「コスト削減」であろう。

 景気低迷とビジネス環境の変化が続く今、企業規模の大小や業種に限らず、経営者層からのIT部門への要求は何といってもIT維持費用の圧縮、すなわち保有資産の圧縮と、運用・保守にかかわる経費の削減である。仮想化ソリューションを推進するベンダーもこうした市場ニーズに合わせ、コスト削減を導入効果として訴求する傾向が強い。

 しかし、企業が仮想化によって十分なコストメリットを得られているかといえば、必ずしもコスト削減ができていないケースが見受けられる。実際に導入企業にヒアリングをすると、サーバの台数が減っても運用管理費は変わらないとする意見も多い。これには大きく2つの原因が考えられる。1つはそもそも期待が過剰であること、もう1つはサーバ集約度が低いことである。

 1つ目の過剰な期待に関しては、物理サーバ台数が3分の1になればコストも3分の1で済むだろうという見解が往々にして聞かれるが、これは明らかに誤解である。仮想化されたとはいえ、システムの数やアプリケーションの構成は維持されるため、必要な監視、障害対応、サポートの工数は変わらない。また、仮想環境特有の管理(VM監視、自動構成管理、仮想環境向けセキュリティなど)が新たに追加されるほか、RDBMSや業務アプリケーションなどの多くのパッケージソフトウェアは、物理サーバ数や利用ユーザ数によって課金されるために、サーバを仮想化しても必要なライセンス数は変わらない。従って、総コストを引き下げる要素として効果的なのは、ハードウェアコスト(保守含む)および設備コストが中心となる。その効果にはもう1つの原因として指摘したサーバ集約度が関係してくる(図4)

図4 仮想化によるコスト削減効果(出典:ITR) 図4 仮想化によるコスト削減効果(出典:ITR)

 確かに、仮想化によって、新たにサーバを購入しなくても、バックアップ環境や、開発環境、短期的な実験プロジェクト用環境が得られるなど、サーバ仮想化によって得られるメリット拡大している。しかし、全体的なITコストの削減に寄与するためには、サーバ集約度がコストメリットを創出するための重要な指標の1つであることに変わりはない。

 従って、必要とするサーバ台数が少ない中小企業がサーバ仮想化によるコストメリットを得るためには、なるべく多くのサーバを仮想化環境に移行することである。幸いにして、当初は開発環境やファイル/プリントサーバなどが主な用途であったサーバ仮想化も、ハードウェアの性能向上や仮想化ソフトウェアの機能向上によって、最近では、適用可能な範囲はデータベースサーバにまで広がっており、より多くのサーバを仮想化環境に移行することが可能となっている。

 図5はサーバ仮想化の利用用途についての調査結果である。2009年に実施したアンケート調査結果と2012年に実施した調査結果を比べてみると、1位はテスト・開発用サーバで、過去の調査と変化はなかったが、2009年に5位であった業務アプリケーションサーバが2012年には2位に上がっている。また、2009年に3位であったファイル/プリンタサーバは2012年には5位へと下がっている。

2009年調査 2012年調査
1位 テスト/開発環境 テスト/開発環境
2位 Webサーバ 業務アプリケーションサーバ
3位 ファイル/プリンタサーバ Webサーバ
4位 データベースサーバ データベースサーバ
5位 業務アプリケーションサーバ ファイル/プリンタサーバ
図5 サーバ仮想化の利用用途の変化(出典:ITR)

 ここまで述べてきたことをまとめると、

  • ここ数年、仮想化技術の導入は、重要なIT施策の1つとなっている。
  • 仮想化技術、特にサーバ仮想化の導入は中小企業においても増加している
  • サーバ仮想化の導入を成功させるためにはコストメリットが重要となる

 サーバ仮想化を導入すれば、ITインフラに関する課題はすべて解決するわけではないが、中小企業だから仮想化してもメリットは得られないという先入観は捨てるべきである。次回は、サーバ仮想化の導入を考えた場合に注意するべきポイントを中心に考えていくこととする。

著者プロフィール

生熊清司(いくま せいじ)

株式会社アイ・ティ・アール(ITR) リサーチ統括ディレクター/シニア・アナリスト

大手外資系ソフトウェアベンダーにてRDBMS、データウェアハウス関連製品のマーケティングを担当した後、コーポレート・マーケティング部門の責任者、アナリスト・リレーション部門の日本代表などを歴任。2006年より現職。現在は、RDBMS、NoSQL、DWH、BIなどのデータ管理と活用に関する製品分野を担当し、ITベンダーのマーケティング戦略立案やユーザー企業の製品活用などのコンサルティングに数多く携わっている。IT専門雑誌への寄稿、セミナーなどでの講演多数。


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