クラウドから始まった足立区のシステム最適化物語(後編)「モノ申す」自治体の情シス(2/3 ページ)

» 2013年06月26日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

コスト意識が無さ過ぎる

 基盤からアプリケーション、それらの運用も含めた最適化による効果はどのようなものか。足立区の2012年度の情報システム関連予算は36億円で、このうち7割が運用関連、3割がシステム更改などだという。秦氏は、「基盤の共通化によって5億円程度は削減できると考えます」と話す。

 基盤の共通化で、ハードウェアなどの物理的なコストが大幅に減少するのは、想像し難くないだろう。また、クラウド基盤の管理では自動化を推進するいわゆる“オーケストレーション”も取り入れている。浦山氏によると、共通基盤に関するシステムは5年リースで運用し、その後は改めてリースをするか、買い取りになる。リースなら最新の基盤に入れ替えるが、買い取りでも基本的には最新のブレードサーバに差し替えるだけいいという。

 これにより、予算の約7割を占める運用コストの大幅な削減効果が期待できるだろう。この先は、前項で取り上げた業務アプリケーションにおける最適化や、2015年度に予定する基幹業務基盤が完成すれば、さらに大幅な削減効果も見込まれる。「最終的にどのくらいの規模に削減できるのかは、全部入れ替えてみてからでないと分かりませんね」(浦山氏)

 基盤共通化の最初のフェーズを無事に乗り切り、こうしたコスト削減効果や当初の狙いであったリソースの確保も実現した。テスト環境も確保できるようになり、これから更改を予定するシステムの検証作業などを通じて、ITに不慣れな職員が実践的な経験を積んでいける場にもなっている。

 秦氏は、今回の経験を通じて次のように語っている。

「特にコスト削減などは、根本的な仕組みから考え直していかなければ実現できません。民間では当たり前のことでしょう。コンサルタントの中には、『ROI(投資利益率)も大事ですよね?』と良い提案をしてくれる人もいます。しかし、そもそも職員側は『ROIって何?』という感覚なので、ほかのところとの比較はしますが、提案されたものをうまく判断できません。自治体はもっとコスト意識を持たないといけませんね」

 また、ベンダーが過大な見積りをしがちな点も自治体側に責任があるという。「自治体はわがままです。予算申請の直前にベンダーに見積りを要求して、それもきちんとした仕様書も出さずに1カ月以内にほしいと無理強いさせます。ベンダーが社内で検討できる時間などないでしょう。自治体のそういうやり方もいけませんね」

 足立区では約5年を費やして、こうした環境を変革していったといえるだろう。独自の原価基準や仕様を決めるにも、職員の意識改革やスキルアップにも多くの時間を掛けてきた。ベンダー側には非常に細かい多くの要求を早い段階から伝え、じっくり検討してもらう新たな“慣行”にシフトした。「今ではベンダーから、『足立区は予算申請の3年前から見積りを要求してくる』と煙たがられています(笑)」(秦氏)

 浦山氏は、「業務システム更改の主導権は、ユーザーである主管部門にあり、情報システムからその周辺をサポートする立場です。そこにベンダーを加えた三者が同じ方向を見ていなければ、良いシステムはできません。ユーザーが要件定義を行い、IT担当がベンダーの協力を得ながらそれを詰めていくような形にしなければならないでしょう」と話す。

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