企業のITシステムのクラウド化が進む中で、「持たないプライベートクラウド」への注目度が高まってきている。ベンダーのサバイバル競争も一層激化しそうだ。
「先行する競合他社に負けないプライシングをしたつもりだ」
NECの中江靖之執行役員は9月12日、同社が開いた新クラウド基盤サービス「NEC Cloud IaaS」の発表会見でこう胸を張った。
同サービスは、IT資産をクラウドベンダーが所有し、それを特定の企業グループが利用する「ホスティング型プライベートクラウド」と呼ばれる形態のものだ。ユーザー企業が所有しないことから「持たないプライベートクラウド」ともいわれる。
中江氏が胸を張ったのは、このホスティング型プライベートクラウドのIaaSサービスとして、最小構成で月額6700円という国内トップクラスの低価格を打ち出したからだ。
同氏によると、ソフトウェア基盤にOpenStackなど標準的なオープンソースを採用し、ハードウェア基盤には省電力・高集積サーバをこのサービス専用に内製化したことで低価格を実現したという。さらに、独自の冷却技術によるデータセンターでの消費電力の大幅な削減もコストダウンに寄与するとしている。
NEC Cloud IaaSはこの低価格なスタンダード(STD)サービスとともに、高性能・高信頼性が求められる基幹業務に適したハイアベイラビリティ(HA)サービスも用意。さらに、これらのマルチクラウド環境を統合的に運用管理できるセルフサービスポータルなどの機能も提供し、企業のITシステムのニーズを広範にカバーしていく構えだ。
中江氏は会見で、企業ニーズを満足するためのクラウド基盤の要件として、「高いコストパフォーマンス・高性能・高信頼・迅速な拡張が可能」「環境への配慮」「安心・安全・セキュリティへの配慮」「複数環境の統合運用」といった点を挙げ、「NEC Cloud IaaSは、NECのSI力、プラットフォーム提供力、技術力、運用力を結集して作り上げたサービスだ」と強調した。
NEC Cloud IaaSの詳しい内容については関連記事を参照いただくとして、ここからはNECも同サービスで照準を合わせたホスティング型プライベートクラウドの可能性について探ってみたい。
まずは最新の調査から、ホスティング型プライベートクラウド市場の動向を見てみよう。
IDC Japanが先頃発表した「国内プライベートクラウド市場予測」によると、2013年の同市場規模は前年比43.9%増の4627億円になる見込みだ。今後も同市場は高い成長を維持し、2012〜2017年の年間平均成長率は34.5%、2017年には2012年比4.4倍の1兆4129億円になるという。
そうした推移の中で、IDCは図にあるように同市場を3つのカテゴリーに分類している。現状で大半を占めているのは、ユーザー企業がIT資産を所有する「オンプレミスプライベートクラウド」である。
しかし、今後はIT資産をクラウドベンダーが所有し、それを特定のメンバー(業界)が利用する「コミュニティクラウドサービス」や、ホスティング型と同様の「デディケイテッドプライベートクラウドサービス」が伸長するとしている。ちなみに、コミュニティクラウドサービスも「持たないプライベートクラウド」という意味では、ホスティング型と同じ形態である。
また、クラウドサービスはパブリッククラウドとプライベートクラウドに大別されるが、MM総研が先頃発表した「国内クラウドサービス市場動向調査」によると、2017年度にはプライベートクラウドがクラウド市場全体の7割(金額ベース)を占めると予測しており、これらを考え合わせるとホスティング型プライベートクラウドの有望性が浮かび上がってくる。
今年5月にクラウドサービスの新体系を発表し、NECより一足先にホスティング型プライベートクラウドサービスを整備した富士通も、「パブリッククラウドとプライベートクラウド双方の特長を併せ持つホスティング型サービスへの顧客ニーズが最近、急速に高まってきている」(同社幹部)と語っている。ちなみに、富士通はまだホスティング型で低価格サービスを打ち出しておらず、今回のNECの動きに追随するかどうか注目される。
だた、NECや富士通にとって最大の競合相手となるのは、IaaSサービスで今、ひとり勝ち状態ともいわれるAmazonだ。今回のNECの新サービスにおけるプライシングもAmazonのサービスを強く意識したものであるのは明白だ。また、この分野にはAmazonだけでなくGoogleやMicrosoftといったグローバルメガベンダーもひしめき合っている。
そうした中で、日本のクラウドベンダーは果たしてサバイバル競争に勝ち残っていけるのか。筆者はそのヒントを今回のNECの新サービスに見たような気がする。企業ユーザーを対象にしたホスティング型プライベートクラウドサービスは、今後も激しいコストパフォーマンス競争にさらされるだろうが、一方でNECが提供するセルフサービスポータルのようなきめ細かい対応が強く求められるようになってくるのではないか。
それこそ、日本のベンダーが得意とする「おもてなし」の発揮のしどころだろう。逆に言えば、ホスティング型プライベートクラウド市場で存在感を持つことができないと、日本のベンダーのクラウドサービス事業は成り立たないのではないか。それぐらいの覚悟を持って臨むべきだと考える。
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