ソニーとの合弁も BPOを武器に躍進するInfoDeliverの次の一手田中克己の「ニッポンのIT企業」

約10年前に現在のビジネスモデルの基礎を築いたInfoDeliverは、ソニーと共同で新会社を設立するなど、強みであるビジネス・プロセス・アウトソーシングを軸にビジネス拡大を図る。

» 2013年10月29日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)ビジネスを展開するInfoDeliverが、データ入力から人事・給与、知財管理などへとサービスメニューを増やしている。そのため、業務ノウハウを持つ企業と合弁会社を設立したり、買収したりする。こうしたBPOの機能を拡充する一方で、BPOを支える人材の育成にも力を注ぐ。

ソニーとの合弁会社

 2013年10月、InfoDeliverがソニーと共同で設立したグローバル知的財産パートナーズが営業活動を開始した。ソニーが蓄積した特許出願事務のノウハウに、InfoDeliverのBPOサービスを組み合わせて、日本企業の外国への特許出願に関する業務を支援する。簡単に言えば、特許出願を容易にし、かつ出願手続きにかかるコストを低減するということ。合弁会社に10%出資するソニーも、外国特許出願の業務を任せるという。

 InfoDeliverがこのビジネスモデルの基礎を築いたのは、約10年前になる。1999年に設立した同社は、中国・広東省出身の尚捷会長兼社長らが開発したPDF関連ソフトやサーバ監視ソフトで事業をスタートした。大手ITベンダーなどが販売パートナーとなったことで、販売本数は着実に増えた。ところが、あるITベンダーがサーバ監視ソフトの扱いを中止。同じような監視ソフトを傘下に取り込んだからだ。多くの顧客を獲得したPDF関連ソフトも、「単体事業としての大きな発展性がなくなってきた」(尚会長兼社長)。

 そんなとき、あるユーザーから試験の採点に関するデータ入力の商談が舞い込んできた。平均値を正確に短時間で出す。つまり、厳しい品質と納期を求められるものだ。加えて、「山谷の激しい仕事であった」(尚会長兼社長)。試験がなければ、データ入力の仕事はないのである。しかし、尚会長兼社長は2003年、この商談を獲得した。

InfoDeliver大連センター(同社Webサイトから) InfoDeliver大連センター(同社Webサイトから)

 それを契機に、同社の収益モデルはソフト商品からBPOへと変わっていく。低料金を実現するために、日本語の分かる中国人が多くいる中国・大連にデータ入力センターを設ける(個人情報などのデータは、日本のデータセンターに置く)。加えて、名前、住所など入力する項目や工程を細分化し、能力に応じて作業を振り分ける。

 尚会長兼社長らは、この仕組みを2週間ほどで作り上げて、改良・改善を加えながら進化させていったという。今でもそれを続けている。一方で、仕事量の増減問題を解決するため、顧客開拓を開始した。「コストが安いので、とりあえず使ってみよう」(尚会長兼社長)というユーザーから、カード申し込みなどに伴うデータ入力を請け負う。

 そうした中で、尚会長兼社長は「BPOのメリットはコスト削減だけではない」ということに気が付いた。BPOは業務プロセス、さらには業務改革へとつながるのだ。

 きっかけは、2004年ごろに受注した電機メーカーの人事関連業務だった。数千人を超える採用試験の応募者への通知、面接スケジュールの調整、さらには研修通知、人事情報管理などの業務から、人事業務のプロセス改善や最適な人材配置を可能にする手法を編み出したのだ。

 尚会長兼社長は「欧米のBPO企業と競合になっても、商談を獲得できる」と自信を見せる。その理由は、日本企業と欧米企業の雇用に対する考え方の違いにある。日本企業にレイオフは馴染まないし、社員1人1人の業務範囲が広い。「社員Aの仕事はこうだ」といっても、実際は隣接する業務に深く関与する。きちんと業務マニュアル化されているわけでもない。

 そこで、社員1人1人の仕事を可視化した。例えば、社員Aに、「どんな仕事をしているか」とヒアリングし、この仕事は時給3000円、あの仕事は時給1000円と分類する。

 この仕分けから、単純作業は中国に移管し、日本はより付加価値の高い業務に集中するなどして業務プロセスを見直す。現在、大連に1500人超のオペレータを配置し、ソニーなど大手企業を中心とした約120社にBPOサービスを提供する規模に拡大している。

大連で培ったBPO人材の育て方

 通販会社や生命保険会社、損害保険会社などからもBPOを獲得した。単純なデータ入力からスタートするが、ゆくゆくは人事や総務、経理へと範囲を広げていく。通販会社とはそのつながりから合弁会社を設立し、100人強の人材が通販会社から移ってきた(合弁会社はその後、100%子会社のIBSとなる)。通販会社が札幌に設けたコールセンターの機能も2013年9月に買収し、IBSに組み入れた。2012年末には、損害保険会社向けに特化したBPOサービスを提供する日本代行も仲間に加えた。今後もパートナーを増やす計画だ。

 その一方で、人材育成に力を入れる。BPOの成否は、人の能力に大きく左右されるからだ。だが、優秀な人材を集めるのはなかなか難しい。一般的に、高いスキルを要求される仕事が少なく、非正規社員も少なくない。そこで、InfoDeliverは正規社員の採用と、多能工化を進める。例えば、午前と午後では異なる作業をこなせるようにする。

 このような一連の業務スキルを持たせるのは、既に大連で実現したこと。そこから、現場で積んだ経験を生かして、人事に関するコンサルティングを担える人材も育つだろう。生保向け医療診断書のデータ入力を請け負うために、担当者が医療専門用語を習得した結果、スペシャリストに育ったりもする。


一期一会

 東京工業大学で経営工学を専攻した尚会長兼社長は26歳のとき、東工大の友人らとインターネットを使ったビジネスを立ち上げるためにInfoDeliverを設立した。サーバ監視ソフトなどを開発、販売するが、ソフト販売の難しさを感じてくる。

 そんな中で、日本企業の成長に貢献するITを駆使したBPOサービスを考えた。システム構築を請け負ったり、業務の一部を請け負ったりするではなく、両方を組み合わせて提供する。しかも、使った分だけを支払ってもらう新しいビジネスモデルでもある。

 BPOには、人が担ったほうが効果の高い部分と、ITを活用して効果を上げる部分がある。今年8月にワークスアプリケーションズの人事業務システムをクラウド方式で導入したのは、その一例。人事業務のBPOとクラウド版人事業務システムをセットにし、ユーザーの業務をいち早く支援する体制を構築する。ユーザーにとっても、BPOによるコスト削減に加えて、システム導入の初期費用を抑えられる。

 41歳になった尚会長兼社長は「日本のIT企業に自由がないように見える」という。顧客の立場で考えるより、大手ITベンダーの顔色をうかがっているということだろう。IT企業は目の前に創出した新市場を見失っている。

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