コンテナ操作の職人技もデジタル化――M2Mで復権なるか? 鉄道貨物(1/3 ページ)

貨物輸送に占める鉄道の割合は約1%に過ぎない。しかし、自動車に比べて環境負荷の小さな鉄道は、長距離・大量輸送における欠かせない存在だ。モバイルとIT、M2Mを駆使して鉄道輸送を支えるJR貨物の取り組みを追った。

» 2014年09月11日 07時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
24時間休むことなく全国を駆け回る貨物列車(JR貨物提供)

 明治時代の初期から貨物輸送の担い手であったのが鉄道だ。しかし、昭和の高度経済成長期に道路網の整備が進んだことで、主役の座を小回りの効くトラックに明け渡し、現在では国内貨物輸送の1%程度にまで縮小してしまった。ところが、近年はトラックに比べて二酸化炭素排出量の少ない環境面への貢献が評価され、中・長距離輸送では「モーダルシフト」と呼ばれる自動車から鉄道への回帰が進む。さらに、最近では景気回復によるドライバー人材の不足も問題となり、一度に大量の荷物を輸送できる鉄道が見直されつつある。

 いまの鉄道貨物輸送は、旧国鉄から貨物事業を継承した日本貨物鉄道(JR貨物)と主要な工業地帯で運営される臨海貨物鉄道が中心だ。現在の貨物輸送における自動車と鉄道は、敵対ではなく補完関係にある。トラック輸送事業者は鉄道を活用することで、道路渋滞や気象などによる遅延リスクを低減でき、二酸化炭素の排出量削減など環境面への貢献にもつながるからだ。そんな鉄道貨物輸送の約99%を担うJR貨物は、全国の輸送事業者と協業し、1日あたり全国で500本近い列車を運行している。

紙と経験と調整力からの発展

 JR貨物は、鉄道の特徴である安全性、定時性、環境性、サービス品質の向上を追求すべく、古くからITやモバイルを活用してきた。1994年1月に基幹システム「FRENS」の運用を開始し、2004年にRFIDタグでコンテナなどを管理する「TRACE」システム、2005年にインターネット経由で列車の輸送枠を予約できる「IT-FRENS」を導入した。2014年3月にはTRACEシステムの更改に伴い、WiMAXやドライブレコーダなどを活用した「IT-FRENS & TRACE」システムを運用している。

IT-FRENS & TRACEシステムの概要

 鉄道貨物輸送は、長らく紙による管理や輸送に携わる人材の経験と調整力に依存してきたという。例えば、コンテナに貼り付ける荷票には積載物や荷主、出発地、目的地、途中の貨物駅(積載列車を変更する)が記され、貨物駅では担当者が荷票を確認して、最も効率よく目的地に輸送できるよう貨車にコンテナを積載配置していた。

 貨車に積載されるコンテナは、12フィートの標準タイプで最大5つ。海上船舶でも使用される巨大な40フィートタイプもある。東海道線など幹線を走行する貨物列車には最大26両もの貨車が連結され、積載されるコンテナは130個にもなり、編成の長さは機関車から最後尾まで数百メートルに及ぶ。この長大な列車に目的地の様々なコンテナが積載されるため、コンテナの配置方法が輸送効率に与える影響は非常に大きい。

標準的な12フィートサイズの鉄道コンテナ。正確な時間で目的地へ送り届けるには、鉄道の安全運行だけでなく、貨物駅での確実かつ迅速な荷役作業が欠かせない

 また、貨物駅でのコンテナの積載作業に使用されるフォークリフトは、街中で見かけるタイプよりも大型であり、様々な形状・サイズのコンテナを効率的に輸送するという視点で積載するには、特殊な操作技術も必要とされる。時にはダイヤ乱れによる遅延も発生するため、いかなる条件下でも臨機応変に対応して定時性を確保する熟練担当者の経験やノウハウは、同社の強みとなっている。

 ただ、競争の激しい輸送業界において人に頼る業務の効率化には、やはり限界がある。JR貨物では2000年6月に「IT改革推進室」を発足させて技術調査や業務分析、技術課題などを行い、ITを活用してコンテナ輸送のさらなる効率化とサービス品質の向上を図るためのIT-FRENS & TRACEシステムを開発してきたという。

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