ヤフー、プライバシー保護の対応方針を公表 「忘れられる権利」にも言及

プライバシーに関する情報の検索結果への非表示対応について有識者会議での検討結果を発表。検索サービスにおける対応の透明性を高めることが目的だとしている。

» 2015年03月30日 20時44分 公開
[國谷武史ITmedia]

 ヤフーは3月30日、検索結果におけるプライバシー関連情報の非表示対応について方針を発表した。方針では検索サービスの中立性や信頼性を損なわないように、表現の自由や「知る権利」とプライバシー保護のバランスに配慮した対応を図るとしている。

 同社は2014年11月に、検索結果からプライバシー関連情報を削除する際の考え方などについて検討する有識者会議(委員長:内田貴東京大学名誉教授・弁護士)を設置。2015年2月まで3回の会合を開催した。ネットの普及に伴って悪意のある情報発信や不注意な情報発信が増え、プライバシーの侵害を懸念する声も拡大。同社によれば、検索結果からプライバシー侵害につながる情報の削除依頼について個別に対応していたが、「外部の専門家の知見や経験を踏まえた議論を通じて、透明性の高いサービスにつなげるため」(執行役員の別所直哉氏)だという。

 方針では(1)プライバシー侵害に関する判断、(2)検索結果内容の非表示に関する判断、(3)リンクの非表示に関する判断――の3つの考え方を示した。プライバシー侵害を申告した人物の属性、情報の性質、情報の社会的意義と関心の度合い、情報掲載時からの経過といった観点に基づいて「表現の自由」とプライバシーのバランスを検討し、非表示措置の有無や方法について規定している。

非表示措置における範囲の考え方

 具体的には、公職者(議員や一定の役職以上の公務員など)や企業・団体の代表者・役員、芸能人、著名人などの場合は公益性が高く、「表現の自由」が優先されるとする一方、未成年はプライバシー保護の必要性が高いと定義。非表示になり得る情報としては、性的な動画像や病歴などの身体的な情報、過去の犯罪被害などがあり、過去の違法行為や処分などの情報は「表現の自由」が優先されるとした。なお、出生等に関する情報については個別判断になるという。

 原則として非表示は、検索結果画面の「タイトルとスニペット」、もしくはリンク情報を含めた2パターンを対象に行う。

 タイトルとスニペットの文言だけで明らかな権利侵害が認められる場合は、権利が侵害されているj情報だけを非表示にし、リンクは表示される。非表示は氏名などの検索キーワードを限定して実施するという。

非表示措置の具体例(左)と非表示措置後のイメージ(右)。リンク先も非表示するケースについても規定した

 リンク情報を含む非表示は、原則として裁判所からリンク先サイトの管理者やプロバイダーに対する情報の削除命令(判決など)が出た場合に実施するという。しかし、リンク先に特定の人物の生命や身体に危険が生じ得る情報など、重大な権利侵害が明白で急を要すると同社が判断した場合は、例外的に非表示にする。リンク情報を含めた非表示措置は検索キーワードは限定しない。

 同社は、3月31日から今回策定した方針に基づく対応を行う。なお、「Yahoo!知恵袋」などのサービスについては、今回の方針とは別に各サービスごとのルールに基づいて対応するという。

「忘れられる権利」は日本なりの議論を

 有識者会議での検討結果について内田委員長は、情報を公表することの「表現の自由」と情報を公開されたくない「プライバシー」のバランスを比較検討するアプローチを採用したと説明する。

 検討では1996年2月の最高裁判決(ノンフィクション「逆転」事件判決)などを参考にしたが、過去の判例の多くは情報を発信する立場とプライバシー保護を求める立場のバランスを比較するもので、今回の方針では検索サービス提供者の立場をどう位置付けるかも焦点になった。

 有識者会議では検索サービス提供者に、「知る権利」を有するユーザーにも配慮した中立性や信頼性が求められると指摘。ただし情報への関与では検索サービス提供者は、Webサイトに情報を掲載する立場やWebサイトを管理するプロバイダーよりも度合いが低いとし、プロバイダ責任制限法などの法的な措置や、警察の相談窓口などの権利侵害に対する救済措置とは異なる対応が求められるとの考え方を示した。

欧州ではプライバシー侵害サイトやプロバイダーなどだけでなく、検索サービス提供者にもリンク情報を削除する命令が出されたが、「日本ではさらなる議論が必要」と同社

 プライバシー侵害情報に対する措置について欧州ではGoogleに検索結果から不適切な情報を削除することを命じた判決が下され、「忘れられる権利」という言葉が注目を集めた。しかし、今回のヤフーの方針策定は「偶然だが、あくまで検索サービスの中立性をより分かりやすくするため」(内田氏)という。

 内田氏は「忘れられる権利」について、「現時点で対象が明確ではなく、EU司法裁判所の判断でもその言葉を使ってはいない。検索サービス提供者が情報を削除しなければならないかどうかは、日本と欧州では前提とする考え方や法令が異なり、日本に前例がない中で判断は難しい。継続的な議論や検討が必要だ」と述べた。

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