リコーの電子黒板が登場した「Watson IoT」の基調講演では、Watson IoTを導入している他の企業も紹介された。まずはオーディオメーカーの「Harman(ハーマン)」だ。
ハーマンは家庭用オーディオ、ホームシアター、車載用などのコンシューマー向け製品から、映画館やスタジアム、コンサートホール、そして放送局やレコーディングスタジオに設置する業務用機器などを幅広く扱うメーカーだが、最近ではWatsonと協力し、病院やオフィスの会議室に活躍の場を広げている。
ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるジェファーソン大学病院では、入院中の患者の病室にWatsonを組み込んだスピーカーを20台ほど設置しているという。患者のパーソナルアシスタントとして、自然言語でコミュニケーションを取りながら、照明や空調といった設備も含めて操作できる。患者の満足度が高まるほか、回復力が高まったり、再入院するケースが減るなどの可能性もあるそうだ。
「会議室についても、テレビ会議が接続できない、プロジェクターが動かないなどのトラブルはつきもの。トラブルのデータとハーマンの音響、照明などのシステムが連動することで、Watsonが適切なネットワークを選び、適切なコンテンツのプレゼンを用意し、温度もカーテンも設定するといったことが可能になるのです」(ハーマンインターナショナル エグゼクティブ・バイスプレジデント モヒト・パラシャー氏)
自動車部品や産業機械を手掛ける独Schaeffler(シェフラー)もWatson IoTを導入している。8万5000人の従業員と75カ所の工場を抱え、欧州でも最大級の特許を持つ大手企業だ。同社はデジタルトランスフォーメーションを進めることを目的とし、2016年10月頭に「Watson IoT パートナーシップ」に参加した。
パートナーシッププログラムでは、自動車のスタビライザーや、加減速の支援システムから得られたデータを基に、路面状況を認知したり、シャーシの動きや運転者の様子を判断したりすることで、環境にやさしい走行を実現するシステムを開発するという。
このほか、1人乗り用のスマートモビリティの開発や、走行中の電車や風力発電機内のベアリングなど、センサーの動作状況から、故障時期やメンテナンスの必要性を見極めるといったデータ活用をWatson IoTで進めていく。
「あらゆるものがつながるIoTは、私たちを物理的な世界ともっと密に結び付けます。Watsonはどんな業界のどんな仕事もサポートし、もっと賢く働けるようになります」
講演に登壇したWatson IoTのゼネラルマネージャー、ハリエット・グリーン氏はこう話し、WatsonがIoTに向く理由を2つ挙げた。そのうちの1つは「高度な機械学習」だ。人間がプログラムしなくても学習できるため、IoT時代のデータの多様性に対応できるという。何十億ものデータを扱うことができ、サプライチェーンマネジメントや原油の掘削、病院などさまざまな場面で通用するシステムを作ることができる。
もう1つが「自然言語処理」だ。話し言葉をインタフェースとすることで、コンピュータと賢い方法でやりとりすることができ、誰にでも扱える。これは物理的な環境とインタラクションをするにも向くとグリーン氏は述べた。
「IoTが新しいビジネスを提供すると考える人は60%以上いる」と同氏。講演に出てきた先進的な事例は、いずれも人とモノとの付き合い方を一変させる可能性を持っている。Watson IoTによって、あらゆる場所やモノと会話でコミュニケーションを取れるようになる日はそう遠くないのかもしれない。
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