カラオケや電子ピアノなど、音楽の楽しみ方やビジネスを大きく変えたイノベーションはこれまで数多くある。世の中にインパクトを与える動きを生み出すには、既存ユーザーの声を聞くだけではいけない。目指すべき未来、つまりはビジョンが必要になるという。
「デジタル改革を進めるには、まずはビジョンを定め、PoC(Proof of Concept)を実施する中でそのコンセプトを磨いていき、事業化の検証を進めていくというアプローチが有効だと富士通では考えています。ビジョンから事業化まで、一貫してユーザー中心の発想で貫くことも重要です」(富士通デザイン ストラテジック・デザイングループ デザインディレクター 田中培仁氏)
ビジョンを考えるために、ヤマハが採用したのは「バックキャスティング」という手法だ。未来のあるべき姿を定義し、そこから逆算して今やるべきことを考える。現時点でのヤマハの強みや成功体験を忘れ、未来の世の中を客観的に予測。その中で望ましい未来を定義し、そこで求められる技術や事業をイメージしていく。富士通デザインとヤマハのメンバーが協力してワークショップを行い、ビジョンを固めていった。
「今までは社外の視点が足りなかったのだと思います。社内には将来的に価値を発揮する可能性がある技術がたくさん眠っている、ということに気付かされました。音を使った企業向けビジネスの可能性や、見えていないマーケットを知ることができたのは、共創ならではのメリットです」(多田氏)
ワークショップを行った後、出てきたさまざまなアイデアを分類し、新サービスが実現する価値と機能をまとめた。その結果生まれたのが、「知性化した音」による新たなインタフェース「Sound Intelligence」というビジネステーマだ。
そして、ビジネステーマを実現するハードウェアとして、各種センサーを搭載する無線イヤフォン「Sound Curator」、クラウド対応型の集音マイク「Broadcaster」、人の動きに合わせて音の演出を行うスピーカー「Sound Producer」というコンセプトを作り、動画も制作している。今は既存の技術を組み合わせ、最低限の機能体験ができるプロトタイプを作成し、イベントなどでユーザーに使ってもらっているところだという。
「新しいことを始めようとするときは、既存ビジネスとの戦いになることもあります。しかし、その多くは新しいビジネスが目に見えないことが原因です。動画を作ることでユーザーがはっきりと分かるようになります。『あの女の子を笑顔にしたい』というレベルの方向付けができているだけで、モチベーションは大きく変わるのです」(多田氏)
新しいテクノロジーをベースとしたビジネスを生み出すのは、もちろん簡単なことではない。しかし、ヤマハと富士通のさまざまな取り組みは、「IoTやAIでどんなビジネスが生まれるのか」という難題のヒントになるはずだ。
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