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» 2018年03月12日 08時00分 公開

農業×ディープラーニングの可能性:元組み込みエンジニアの農家が挑む「きゅうり選別AI」 試作機3台、2年間の軌跡 (3/3)

[池田憲弘,ITmedia]
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「自動化」から「人間のサポート」へ方針変更

 スピードの向上や、きゅうりを傷めることなく機械に仕分けさせるには、開発が難しいしコストもかさむ。小池さんは「仕分け作業の完全自動化」という方針をやめ、「AIによる人間のサポート」というコンセプトに変更した。等級の判断のみをAIに任せ、箱詰め作業は人間が行うという“分業”にしたのだ。

 開発した「試作3号機」は、ディスプレイ上に設置したテーブル(アクリル板)にきゅうりを乗せ、きゅうりが置かれた場所に等級を表示するという仕組みだ。CNNも5層に増やし、きゅうりの長さや表面積、太さといったデータも入力するようにした。季節ごとに変わる傾向の誤差を吸収(調節)できるようにするためだ。

photo 試作3号機は、ディスプレイ上に設置したテーブル(アクリル板)にきゅうりを乗せ、箱詰めは人間が行うという分業体制を採用した
photo きゅうりを乗せると等級と長さ、そしてAIの判断の確からしさが表示される

 教師データ用に集めた画像は2万8000枚。画像処理でテーブルにあるきゅうりの画像を切り出すようにしたため、一度に10本ずつ撮影でき、作業は1カ月ほどで済んだとのこと。8000枚の画像でテストを行ったところ、精度は約80%だったという。試しに小池さん自身が実務で使ってみたところ、仕分けのスピードが約40%上がった。

 実環境で851本を判定したところ、正答率は73.3%だった。小池さんとしては「B品(品質が1ランク低いもの)の正答率が低い」ことが課題で、調整を続けていく考えだが、これ以上学習に利用するデータを増やしても、精度が上がりにくい状態になっており、コストパフォーマンスとの兼ね合いに悩んでいる。今後は、認識速度の向上にも取り組んでいくという。

photophoto 試作3号機では5層の畳み込みニューラルネットワークを採用し(左)、判定を調整(キャリブレーション)する仕組みも取り入れた(右)
photophoto 教師データの画像は2万8000枚(左)。実利用での精度は73.3%だった(右)

完璧じゃなくても、十分役に立つ――農業×ディープラーニングの可能性

 人工知能の開発を続けて約2年。小池さんはさまざまな気付きがあったと振り返る。まずは「熟練の技術を仕様に落とし込むのは難しい」ということだ。基準が複雑であるため、上手く言葉に表すのが難しく、個人のこだわりによる部分もある。小池さんは、「だからこそ、現状のデータから学んでいくディープラーニングは適しているように思う」と強調する。

 農業ならではの注意点もある。品種や季節、栽培方法によって作物の形は変わるという点だ。少なくとも1年間分はデータを集める必要があるし、各要素が変わったときの差を調整する仕組みも必要になるという。

 ディープラーニングを使用するには、良質なデータを大量に集める必要があるため、100%に近いレベルの精度を出すのは、コストや時間がかかる作業だ。しかし「無理に完璧を目指さなくてもいい」というのが小池さんの考えだ。

 「実際に7割〜8割くらいの精度でも、作業効率が向上しました。ディープラーニングは“天才”じゃなくても、ある程度の精度が出せる技術だと言えます。だからこそ専門家じゃない人間こそ、どんどん試すべきだと思っています」(小池さん)

 現在はきゅうりの自動収穫を目指して、畑の中から栽培中のきゅうりを検出する実験をしたり、地元の町工場の人々にディープラーニングを教えたりしているとのこと。小池さんのあくなき挑戦とエンジニア魂は、個人のアイデア1つでイノベーションが生まれる可能性を感じさせる。

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