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» 2019年02月15日 07時00分 公開

海外ピッチコンテストを席巻! 「声で感情を丸裸にする」技術の使い道って?――Empath CSO 山崎はずむさん(前編)長谷川秀樹のIT酒場放浪記(3/3 ページ)

[やつづかえり,ITmedia]
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使い道いろいろ、でも「浮気調査」はちょっと……

長谷川: これ、いいですね。1on1で使いたいな。人事に解析結果が送られて、怒りや悲しみがあまりに出ていたらサポートした方がいいんじゃない? とアラートを出すとか……。

山崎: 例えば、ある会社が開発している企業向けの製品は、場の雰囲気や盛り上がり、人間同士の親密度なんかを計測するセンシングデバイスで、その裏側にEmpathが入ってます。「◯◯部のこの席のあたりで怒りの感情が多く出てるけど、これってパワハラじゃない?」みたいなことを、ざくっとは検知できますよ。

長谷川: 語気は荒いけれど良いコミュニケーションをしていた、みたいなこともありますよね?

山崎: その可能性もあります。だから良いコミュニケーションかどうかの判定は難しいですけど、他の部署と比べて明らかに感情値の出方が違うと、やっぱりおかしいんですよね。「何かありました?」と聞きに行けるトリガーになるんです。そのときに「データがこう出てる」と示せることが重要なんです。主観だけで「あなた、いつもキレてるよね」と言っても説得材料にならないですから。

長谷川: 確かに。

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山崎: フィリップスの『Hue』という照明とつないで、ミーティングが盛り上がっているかどうかで照明の色を変化させる、ということもやってます。みんなが快活に話しているときは普通の黄色っぽい色で、暗い話し方をしていると青色になるんです。

長谷川: それ、面白いですね。うちの会社にも入れよう!

山崎: ありがとうございます。これがいいのは、みんなが「う〜ん」とかいって会話がスタックしちゃっているときに、ライトが真っ青になるんですね。そうすると「今、俺らヤバイね」と笑いだして、黄色い照明に戻る。「笑いが起きてスタックが崩せる」というのは、個人的にはポジティブで良いテクノロジーの使い方だな、と思ってます。

長谷川: 「監視して注意する」という感じじゃなくて、プラスに転換するという感じがいいね。

山崎: 監視されていると話しづらくなっちゃいますからね。僕らが考えているのは、“テクノロジーがコミュニケーションをどうサポートできるか”ということなので、ウソ発見器みたいな「それがあると話しづらい」というようなものには使いたくないんです。よく「浮気の尋問に使いたい」とか言われるんですけどね(笑)

長谷川: うたがっている時点で結局、もめる方向にしか行かないし、ハッピーにはならないですよね(笑)

コールセンターにおける音声感情解析の多様な使われ方

長谷川: Empathの使われ方としては、今もヘルスケアの分野が多いんですか?

山崎: もともとはその領域をやろうとしていたんですが、なかなかお金にするのが難しく、感情解析のプラットフォーマーとしてロボットに入れたり自動車に入れたり、いろいろやらせてもらいました。今は商用的にはコンタクトセンター向けに絞りつつあって、そこからメンタルヘルスケア領域の研究開発も続けているという形です。

長谷川: コールセンターでの会話を解析してお客さんが怒ってるのを検知するとか、そういうことですか?

山崎: いろいろな使い方ができますが、こちらから電話をかけてモノを売っていくというアウトバウンド業務では「成約率を上げる」という目的で使っています。例えば、ある商材では「一定時間“悲しみ”の感情が表れているお客さんは、他の方よりも購買にいたりやすい」ということがデータから分かってきました。悲しみの感情が表れているというのは、悩んでいらっしゃるということなんですね。そのタイミングでオペレーターに「今こういうキーフレーズを入れると成約しやすいですよ」というアラートを流すという仕掛けを作っています。

長谷川: なるほど。オペレーターがお客さんに対して失礼なことを言ってないかな、というのをマネジャーがチェックするような使い方もできそうですね。

山崎: おっしゃる通りです。怒りの感情が強めに出ているというアラートが上がった時にマネジャーが通話を聞き、「これはマズイ」というときはその場で指導するということもできます。逆に、成約率や顧客満足度の高いハイパフォーマーといわれるようなオペレーターの音声データを解析し、「こういう話し方をするといい」という教育の材料に使っていただくなど、とても多様な使い方をされています。

長谷川: 問い合わせを受けるようなインバウンドのコールセンターでも使ってますか?

山崎: はい。日本のコールセンターの課題として、離職率をどう下げるかというところがあるので、オペレーターさんの心的状態を可視化し、モチベーションが下がっているときにスーパーバイザーの方が面談をするような仕掛けを作っていこうとしています。もともとメンタルヘルスケア向けに開発した技術なので、こちらの方が本当にやりたいことなんですけど、「成約率がこれだけ上がった」というのが分かりやすいので、今はアウトバウンド向けの方が引きが強いという状況です。

海外ピッチコンテストで優勝すれば大きなPR効果に

長谷川: 多言語の対応は、言語ごとに教師データを作ってやるんですか?

山崎: 話されている内容は見ていないので、原則としてはどんな言語でも汎用的に使えるんです。先行研究でも、表情などに比べると、音声からの感情の表出は「文化による差異」が極めて少ないといわれています。

長谷川: 例えば中国語は語気が強くて「怒ってるのかな?」と感じたりするし、日本の中でも東京人からすると関西人のしゃべり方は怒っているように聞こえるとか、そういう差があるような気がするんですけど。そのあたりはどうやって補正しているんですか?

山崎: 言語ではなく個人の特性に合わせていくようにしています。その人のデータセットがたまるほど、その個人に対して最適化させるような学習をさせていくんです。

 ただ、それでもやはり文化差がないわけではないので、今、Empathが使われている50カ国の音声データを利用して、今後は主要言語ごとに専用のSDKやAPIを作っていくことを考えています。

長谷川: 50カ国で使われているというのは、積極的に海外に売り込んでいっているんですか?

山崎: 50カ国というのはAPIを利用している国がそれだけあるということなので、それに関しては何もマーケティングをしていない状態です。それとは別に主要なターゲット国というのはあって、実は僕、1年のうちの半分は海外にいるんですよ。

長谷川: 日本のベンチャーは基本的には国内市場を見ているところが多いと思いますが、Empathさんは違う?

山崎: 日本のベンチャーはもっと海外市場に出るべきだという話もありますが、僕らは単純に楽しいから外に出て行っていて、結果として今は海外からも売上がたってきました。

 僕らの場合、海外のピッチコンテストに頻繁に出場しています。優勝すれば賞金をもらえるし、無料でメディアにも載る。とてもコストパフォーマンスの良いPRができるんです。海外での知名度が上がると日本のお客さんも付きやすくなるというサイクルもあるので、僕らの中では海外に出ていくことはとても重要ですね。

長谷川: ピッチコンテストではどのくらい勝って、いくらくらいもらってるんですか?

山崎: 2018年は8回優勝してます。賞金はキャッシュとそれ以外のものを含めると1千万円を超えてますね。

長谷川: それはすごい!

(後編に続く)

Empath CSO 山崎はずむ氏プロフィール

音声感情解析AI Empathを開発する株式会社EmpathのCSO。海外戦略を担当。米国のベンチャーキャピタル1776が主催するピッチコンテストChallenge Cup Japan 2017にて優勝、日本代表に選出される。またドバイで開催された中東最大のテクノロジー見本市GITEX 2017にて開催されたピッチコンテストAccenture Innovation Award AI部門で優勝。国内スタートアップ同士の連帯を深めるため、2017年7月よりミートアップ・イベント、Tsumuguを主催。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。2017年より青山学院大学社会情報学部特別研究員。


メルカリ CIO 長谷川秀樹氏プロフィール

1994年、アクセンチュアに入社後、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事。2008年、東急ハンズに入社後、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施。デジタルマーケティング領域では、Twitter、Facebook、コレカモネットなどソーシャルメディアを推進。その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは、次世代のお買い物体験への変革を推進している。2011年、同社、執行役員に昇進。2013年、ハンズラボを立ち上げ、代表取締役社長に就任。東急ハンズの執行役員と兼任。AWSの企業向けユーザー会(E-JAWS)のコミッティーメンバーでもある。2018年10月から現職。


制作:チームIT酒場放浪記

ホスト:長谷川秀樹

マッチメイク・企画:酒井真弓

執筆:やつづかえり

企画・編集:後藤祥子


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