MS、AWS、Google、オラクルが大阪へ クラウドベンダーの「東西マルチリージョン化」がもたらす変化と“2つのメリット”とは?“西日本進出”だけが目的ではない(2/2 ページ)

» 2020年02月14日 07時00分 公開
[谷川耕一ITmedia]
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“ミッションクリティカルシステム”のクラウド化戦略を支える大阪リージョン

 西日本に拠点を持つ顧客へのアピールという点からいえば、Oracle Cloudの大阪リージョン開設と同時に発表された、TOKAIコミュニケーションズの大阪リージョンへの接続サービス提供の動きなどは、Oracleにとっては追い風だろう。Oracle Cloud大阪リージョンのメリットを最大限に活用できるかは、同サービスを扱うSI系パートナーの提案力の強化に加え、TOKAIコミュニケーションズのように接続サービスを持つパートナーをいかに取り込むかに左右されそうだ。

 Oracle Cloudの大阪リージョン開設は、数多くいる既存顧客の囲い込みに重要な施策だ。Oracle Databaseを利用するミッションクリティカルなシステムをクラウドに移行したいと考える顧客に対して「東京、大阪の2つのリージョンを使って国内完結型で災害対策、高可用性を確保した構成がとれる」ことは大きな優位性になるからだ。

 例えば、ある企業が既存のOracle Databaseを使ったミッションクリティカルなシステムをクラウド化するとしよう。AWSを選択した場合は、まずはシステムを「AWS化」しなければならない。これには「Amazon Aurora」などへのデータベース移行も必要で、データベースが変わればアプリケーションの修正も必要だ。いったんAWS化したシステムを、AWSの仕組みを組み合わせてマルチリージョンで冗長化構成をとることになる。この手順を考えると、将来的に自社クラウド環境をAWSに全て託す判断がなければ、Oracle Databaseを利用したミッションクリティカルなシステムをAWSに移行したいとは考えないかもしれない。

 一方Oracle Cloudであれば、Oracle Databaseを利用したままクラウド化でき、アプリケーションの修正も最小限で済む可能性がある。可用性を確保するための冗長化も、オンプレミスシステムにも適用されている高可用性構成「Oracle MAA(Maximum Availability Architecture)」(以下、MAA)を基に、さまざまなパターンで構築できる。東京、大阪のマルチリージョンでMAA構成をとることはもちろん、東京はオンプレミスのままで、災害対策サイトだけをOracle Cloudの大阪リージョンに構築するなど柔軟な構成もできる。いったんシステムを構築し、確実に運用できることを確認してからマスター側をさらに東京リージョンにリフトする、という段階的なアプローチも可能だろう。

日本オラクルの高可用性構成「Oracle MAA(Maximum Availability Architecture)」の概要図

 これらの点を踏まえると、ミッションクリティカルなシステムに「Oracle Databaseを使い続ける」と判断した企業にとって、Oracle Cloudはより選択しやすくなったといえる。日本オラクルのケネス・ヨハンセンCEO(最高経営責任者)は「まずは既存顧客のクラウド化からアプローチする」と、以前から言及している。国内に2つのリージョンを開設できたことは、この戦略をかなり補強することにつながりそうだ。

ERPの更新時期を迎えて――SaaS拡大戦略にも重要になる大阪リージョン

大阪リージョンの開設を発表した日本オラクルのケネス・ヨハンセンCEO

 Oracle Cloudのケースをさらに詳しく見ていくと、大阪リージョンは「Oracle ERP Cloud」といったSaaSビジネスの拡大にも寄与しそうだ。OracleのSaaSは「Oracle Exadata」をプラットフォームにして、MAAの高可用性構成が裏で動いている。まだ東京リージョンしかなかった際には、海外リージョンを使うMAA構成となっていたはずだが、Oracle ERP Cloudや「Oracle CX(Customer eXperience) Cloud」といったアプリケーションを使いたい企業にとっては、顧客情報など海外に置きたくないデータも多い。今後大阪リージョンからもSaaSの提供が始まれば、国内完結型で災害対策、高可用性構成がとれることになる。

 つい先日、SAPは「SAP ERP」のサポート期間を2025年から2年延ばすと表明した。とはいえ、これから数年のうちに多くのオンプレミス型ERPがリプレース時期を迎える。このとき、移行先にSaaSを選択するのは必然だろう。

 SAPユーザーがクラウド型ERPの「SAP S4/HANA」で国内完結型の災害対策構成をとろうとすれば、恐らく自分たちで手間をかけてクラウド環境を構成する必要がある。一方Oracle ERP Cloudを選べば、自動的に国内で完結する形のSaaSが実現する。「災害対策構成が必要」なおかつ「ERPのデータを海外に出したくない」という要件を抱えた企業に対しては、Oracle ERP Cloudは大きな優位性を示せそうだ。

 ところで、Oracle Cloudのフラグシップサービスである「Oracle Autonomous Database」については、現時点で災害対策構成を選択できない。日本オラクルは今後提供を計画しているようだが、時期は未定だ。この辺りは、競合ベンダーを追いかける立場の日本オラクルとしては、なるべく早期に実現したいところだろう。

 ここまで考えると、日本オラクルのようなクラウドベンダーにとって、東京、大阪に拠点を構えた“マルチリージョン化”を実現することは、さまざまな意味で自社サービスを強化する意味があることが分かるはずだ。

 しかし、それだけでクラウド市場の勢力地図が一気に描き変えられるわけではない。多くの企業は、実績の面からも最初の選択肢にAWSを、続いてAzureを挙げるだろう。この傾向が簡単に覆されるわけではない。この上位2社の地位を脅かすには、追いかける立場のクラウドベンダーはさらに明らかな優位性を示していく必要性があるだろう。

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