では、具体的にどのような取り組みを進めているのか。富士通は個別の取り組みを「変革テーマ」と呼んでいる。
図1から要素別に分類して示したのが、図3だ。現在、約150のテーマが挙がっており、全従業員がこれらのテーマの内容を確認できるとともに、3カ月ごとに内容の見直しや優先付けを実施しているという。
また、これらの変革テーマを進めるために図4に示したような手法を用意し、変革にまつわる暗黙知を形式知にするためのフレームワークとして展開している。これによって、変革テーマに合わせてこれらから効果的な手法を複数組み合わせながら変革を進めていくといった格好だ。
富士通のDXの具体的な変革のテーマと手法を記した図3と図4は、貴重な情報だ。これらの図の中から幾つかの取り組みを紹介しよう。
「パーパス・カービング」は、対話によって個々の従業員のパーパスを掘り当てて言語化することだ。「例えば、あなたは何のために富士通で働いているのかと問う。すると皆、思い起こす動機がある。それを掘り起こす。この活動については現在グループ従業員の約10万人が終えたところだ。なぜ、これが必要なのか。個々の従業員のパーパスと会社のパーパスとの重なり合いが、変革への原動力になるからだ」と福田氏は説く。
「事業ポートフォリオの改革」では、パーパスを実現するために事業ポートフォリオを見直して7つの注力領域を設定した。これが新事業ブランド「Fujitsu Uvance」だ。この取り組みは従来の事業の選択と集中を図るだけでなく、富士通がIT企業からDX企業へと変わるためのビジネスモデル改革を意味している。その改革とは、顧客の要件に沿って製品やサービスを提供する「従来型ビジネス」から、提言をもってアプローチする「オファリング型ビジネス」へと転換することだという(図5)。
「OneFujitsuプログラム」は、そんなFujitsu Uvanceをグローバルで標準サービスとして提供するため、マネジメントや業務プロセスなどもグローバルで標準化しようと、主要な業務システムやデータ活用のグローバルでの一本化を進めるものだ。「これによって、現在4000ほどある社内システムの7割程度を削減できると見込んでいる。一本化した業務システムは2024年までに順次稼働させていく計画だ」と福田氏は話す。
OneFujitsuプログラムの概要を見ると(図6)、先述したフジトラのプロジェクト体制がDX Officerによる事業組織ごとの「縦の変革」を主体としているのに対し、OneFujitsuは「横の変革」を進める形となっている。
「Fujitsu-VOICE」は、顧客や従業員の声をデジタルツールによって集めてAI(人工知能)でさまざまな分析を実施することで変革の実態を探る仕組みだ。今では10万件を超える声が集まっているという。このVOICEを使ったグループ全従業員対象の全社変革実感調査では、「2022年7月時点で回答率44%、その中で『実感あり』との回答は48%だった」(福田氏)とのこと。「実感あり」と回答したのは全従業員の2割程度になる。ただ、回答しなかった過半数の従業員がDXに無関心というわけではないようで、「私の感触としてDXに前向きな従業員は現時点で全体の3分の1程度。この割合は着実に高まっている」というのが、福田氏の見方だ(図7)。
以上が、それぞれの取り組みを踏まえた同社のDXの進捗だ。あらためて全体の進捗度合いを聞いたところ、福田氏は「山登りで言えば5合目あたり。まだ頂上は見えないが、周りの景色はだいぶ変わってきた」と答えた。ここで福田氏が「景色」と表現したのは「変革に向けた空気感」とのことだ。「5合目あたり」は先ほどのDXに前向きな従業員の割合の「3分の1程度」とギャップがあるようだが、福田氏は「自転車で言うと、こぎ出しから加速がつく段階に入っていくので、全体としては半分の行程まで来た感覚がある」との見方を示した。
また、DXを推進して2年半たった今、取り組み方として最も効果的だと感じている点と、最も難しいと感じている点を挙げてもらったところ、福田氏は効果的な取り組みとして「フジトラのプロジェクト体制」(図2)を挙げた。その理由については「DXは経営トップの強力なリーダーシップの下、全社を挙げて取り組まないと絶対に進まないからだ」と答えた。
一方、難しい点としては「従業員のエンゲージメント」を挙げた。その理由として「DXを『自分ごと』としてなかなか捉えてもらえないからだ。会社がやってくれる、誰かがやってくれるという意識を変えるのは至難の業。制度やプロセスを変革しながら意識改革を実施することがDXの不可欠な要件となる」と説明した。
とは言え、福田氏は富士通をはじめ、日本企業のDXに向けた昨今の取り組みについて、「ポジティブに捉えている。歴史上、ITやデジタルが今ほど注目されたことはない。ここに一層拍車を掛けていきたい」と述べた。一方で、「ただ、企業ごとに見ると、DXを経営課題として取り組んでいるかそうでないかで進捗にかなり差が出てきている」と指摘した。
福田氏の話を踏まえて富士通におけるDXの進め方を見ると、これからDXに本格的に取り組む日本企業にとってロールモデルとなるところが多々あるのではないか。その視点で、筆者からも企業におけるDXのポイントを次のように3つ挙げておきたい。
最後に、IT企業からDX企業へと変革しつつある富士通については、顧客をはじめとしたユーザーが同社をDXパートナーとして受け入れるかどうかが、そのバロメーターとなる。富士通グループ全体の今後の活気とビジネスの成長ぶりに注目していきたい。
(更新のお知らせ)図6を最新の図版と差し替えました(2023年1月17日更新) 。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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