では、日本企業のCFOはグローバル企業と比べてどのような状況にあるのか。グローバルでは図1で紹介したように、全社変革プロジェクトとして現在取り組んでいるものが1社当たり3.1テーマ、今後1年間に追加して2.1テーマに着手する予定なのに対し、日本ではそれぞれ2.9テーマおよび2.4テーマとの回答だった。この取り組み状況については、グローバルと日本の間であまり差はない結果だった。
しかし、図3で示した現時点で期待以上の成果を生み出せているCFOのうち、4部門以上の変革に影響を与えている割合ではグローバルが57%だったのに対し、日本は26%にとどまった。図3で示した事業現場など4部門への影響も限定的で、「日本のCFOは真の全社変革に取り組めていない」というのが、山路氏の見方だ。
グローバルと日本のCFOを比べた場合の全社変革に向けた課題はまだある。山路氏は図5を示しながら、「データの質への感度が低い」「定量的価値を掲げられていない」「目指す価値を事前に握れていない」といった3つを挙げた。起点となっているのは、データの質への感度が低いことだ。調査結果を見ると、全社変革プロジェクトで価値を創出する上で、高品質なデータをしっかり収集することの重要性をどれだけ認識しているか、と問いかけたところ、日本はグローバルの半数にとどまった。
こうした状況を踏まえて、日本のCFOがこれから取り組んでいくべきことは何か。アクセンチュアはかねてCFOの進化として、図6に示すように「金庫番型CFO」→「全社パフォーマンス掌握型CFO」→「全社変革プロジェクトのオーナー」→「全社変革プロジェクト横断の価値創出マネジメント」の4ステップを提示してきた。その中で、山路氏は「グローバルは3ステップ目に進んでいるが、日本はまだ2ステップ目の段階」と説明した。
そうした状況を踏まえた上で、同氏は日本のCFOが取り組むべきこととして、「武器となるデータを報告させずに、自動で掌握する仕組みと体制の構築」「他部門の巻き込みに向け、現在推進中の改革でアプローチする価値の定量化」「財務効果の創出検証チームを立ち上げ、プロジェクト体制への組み込み」「ビジネス最前線での経験も積めるよう、経理・財務人材の育成モデル改革」といった4つを提言として挙げた。
そして、このうち1つ目のデータを自動で掌握する仕組みとして、製造業者の事例を図7に示した。山路氏によると、「入力しないと日々の業務が前に進まないようにすることで現場の事業活動をデータ化し、数字集計を自動化することで課題対応や変革推進につなげる」という仕組みだ。言い換えれば、これこそ企業におけるDXの取り組みである。
実は、山路氏は以前、同社が定期的に実施しているグローバルCFO調査の記者説明会で「CFOはCDO(最高データ責任者)も担うべきだ」と主張していた。その内容は2021年3月1日掲載の本連載記事をご覧いただくとして、当時の主張は今回の発表内容にも反映されているのか。CFOは企業のDXにおいても重要な役割を果たすのか。今回の会見の質疑応答で聞いてみたところ、同氏は次のように答えた。
「提言の1つにデータを自動で掌握する仕組みと体制の構築を挙げたが、これこそ日本のCFOが取り組むべき『一丁目一番地』であり、まさしくCDOとしての役割でもあるというのが、われわれの主張だ。また、図1においてデジタルを全社変革プロジェクトの一つのテーマとして表記したが、実際にはデジタルが他のテーマの変革のベースにもなる。その意味では、全社変革プロジェクトはDXプロジェクトでもある」
これまでの話をまとめると、「CFOはCDOも担って全社変革をリードせよ」といったところか。冒頭で紹介した山路氏の発言と同じ意味だ。ただ、グローバルに追いつくためにはスピーディーに動くことが重要だ。日本のCFOのさらなる奮起を期待したい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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