Salesforceプレジデントに聞いた 「AIエージェントはオーケストレーション可能か?」Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2025年04月14日 14時20分 公開
[松岡 功ITmedia]
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「顧客ニーズに応じて実現していきたい」

 「Agentforceについては、日本でも非常に強い手応えを感じている。これまで当社が提供してきたソリューションをさらに有効活用できるようにするものとして、これを機に一層パートナーエコシステムの拡充に努めていきたい。特に、AIエージェントではお客さまの要望に応じてさまざまなインテグレーションのニーズが出てくると思われることから、システムインテグレーター(SIer)とのパートナーシップをさらに強化していきたい」

 こう話すのは、スティール氏に続いて登壇したセールスフォース・ジャパンの浦賀敦資氏(専務執行役員 アライアンス事業統括本部 統括本部長)だ。

セールスフォース・ジャパンの浦賀敦資氏

 その上で、同氏は「Agentforceを発表して以来、パートナー企業の取り組みが大きく前進している。Agentforceの認定資格者数が増加し、デリバリー体制も構築されてきたほか、カスタマーゼロということで、パートナー企業自身にAgentforceを採用して使ってもらい、その知見と経験を生かしてお客さまへ一緒にアプローチする活動を積極的に行っている。とくに、先ほど強化していきたいとお話ししたSIerやコンサルティング会社とのパートナーシップについては、協業する約50社のほとんどにまずは自社で採用してもらっている」と説明した(図5)。

図5 Agentforceの日本でのパートナー展開(出典:セールスフォース・ジャパンの会見資料)

 そして、浦賀氏は「Agentforceがデジタル労働力を生み出すプラットフォームだということは、当社がアプローチできる領域が一気に広がったことを意味する。なぜならば、これまではITやデジタルの領域にとどまっていた話が、『労働力』という巨大なマーケットにチャレンジできるようになったからだ。パートナー企業にもそうお話ししながら、一緒にマーケットを大きくしていこうと呼び掛けている」とも述べた。

 この捉え方については異論もあるかもしれないが、筆者は前向きな思考として賛同したい。とりわけ、「労働力をデジタル化する」ところに、これまでデジタルだけの世界ではなかった発想が生まれるかもしれない。

 その新たな発想にも関係するかもしれないのが、冒頭で問題意識として挙げた「マルチベンダーのAIエージェントをオーケストレーションさせて、企業の業務全体の生産性を上げていくこと」だ。Salesforceのこれまでの話は、AIエージェントに関していえば、全て同社のプラットフォームでの動きだ。

 そこで、筆者は会見の質疑応答でスティール氏に、「今後のユーザーニーズとして、Salesforceと同様に企業に数多く使われているSAPやOracle、Microsoftなどの業務アプリケーションのAIエージェントともオーケストレーションさせて、企業の業務全体の生産性向上を図りたいという声が大きくなると思う。その対応についてどう考え、取り組むのか」と聞いてみた。すると、同氏は次のように答えた。

 「Agentforceを他のソフトウェアベンダーのさまざまなAIエージェントとも会話できるようにしてアクションをとれるようにしたいというお客さまのニーズは認識しており、当社として実現したいと考えている。ただ、そうした環境を構築する上で重要になるのは、ガバナンスや安全性だ。また、マルチベンダーのAIエージェントを会話させながらアクションをとる上で、実際の使用レベルのパフォーンスを確保できるのか。そうしたさまざまなルール作りや個々の動作の検証が必要になるだろう。そうしたことも踏まえた上で、既に多くのパートナー企業とエコシステムを構築し、AIエージェントのプラットフォームを保持している当社として、お客さまのニーズにしっかりと応えたい」

 この質問については「マルチベンダー」といっても、これまで回答があいまいになるケースが多かったので、とりわけSalesforceに対してはエンタープライズソフトウェア領域の競合であるSAPやOracle、Microsoftの社名を出して聞いた。予想通りではあるが、スティール氏のコメントからはマルチベンダー対応についてもリードしたいとの強い意欲を感じた。

 同氏は会見後、記者席の筆者のところにわざわざ来て、「グッドクエスチョン」と言いながら握手を求めてきた。こうした戦略についての会見では、発信するベンダーが自ら競合との関係について話すことはほとんどなく、質疑応答で問われて話すケースが多い。それでもあいまいに答えることが多いが、今回の場合、おそらくまだ何も公表できないものの、Salesforceとしての意思を明確に述べたかったのではないか。筆者も「サンキュー」と返しておいた。ちょっとしたやりとりだが印象的だったので、書き記しておきたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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