鳥井氏はさらに、IBMのAIエージェントに関する取り組みとして、次の2つを説明した。
一つは、38の専門領域のソリューション責任者が業界別、業務領域別にAIエージェントのユースケースとソフトウェアアセットを体系化して各国に展開していることだ(図4)。
図4の左にあるように、38領域のグローバル・アセット責任者は各国(現地法人)の責任者を通じて業界別にコンサルティングするとともに、顧客企業における業務課題の把握に努めている。高度なAIスペシャリストはグローバルで7.5万人、日本で700人、業界資格を持つコンサルタントは同じく13.5万人、5000人を擁しているという。
もう一つは、IBMのAIプラットフォーム「watsonx」でカスタムSI(システムインテグレーション)を最小化することで業務変革の適応領域を拡大し、導入期間も短縮できるようにした点だ。先述したIBM Consulting Advantage for Agentic Applicationsを活用するとともに、システム開発領域としては「ユーザーインタフェース開発」「エージェント実装・システム連携」「データ統合」「ガバナンス&セキュリティ実装」の4つに対応する(図5)。
なお、先述したwatsonx Orchestrateの新たな機能については、田中氏が図6を示しながら説明した。特に、企業がAIエージェントによって業務全体で効果を出すためには、マルチベンダーのマルチエージェントをオーケストレートすることが求められる。田中氏によると、watsonx Orchestrateでそうした環境を実現できるようになったという。
説明の最後に、二上氏は「企業で使うAIエージェントは業務アプリケーションの一種だ。当社はAI技術もさることながら、業務アプリケーションについてもSIやコンサルティング、パッケージ、SaaSなどのさまざまなビジネスを通じて膨大な知見やノウハウを蓄積している。AIエージェントの活用においてもそれらが生きると確信している」と自信のほどを示した。
二上氏が述べたのは、まさしくIBMの強みだ。これまで紹介した図では、図4の専門人材によるサポートと、図5のカスタムSIの最小化もその強みに含まれる。AIエージェントはホットな話題だけに、つい個々のツールやプラットフォームに目が行きがちだが、インテグレーションやサポートもソリューションを採用する際の重要なポイントになるだろう。
会見の質疑応答で筆者は、「AIエージェントは企業の業務システムにどのような形態で入ると見ているか。個々の従業員が帯同するパーソナルエージェントが起点になって業務ごとのエージェントとつながるのか。それとも人が業務ごとのエージェントと必要に応じて直接つながるのか」と聞いた。
この質問をしたのは、企業がAIエージェントによって業務全体で効果を出すために、導入形態をどう考え、どんなソリューションを採用すればよいのか、という冒頭で述べた疑問を解くカギになると考えたからだ。
この質問に対し、鳥井氏は「ユースケースによっていずれのパターンもあるのではないか」、田中氏は「当社のAIエージェントは業界・業務別の展開が主体になる。パーソナルエージェントについては個人へのタッチポイントのツールを持つMicrosoftやGoogle、Appleなどが狙いをつけているだろう」と答えた。
企業向けAIエージェントについては、業務・業種アプリケーションベンダーをはじめ、ITサービスベンダー、ハイパースケーラー、コンサルティング会社が、それぞれの立ち位置でソリューションを打ち出している。中でも先行しているのは業務・業種アプリケーションベンダーで、AIエージェントによってそれぞれの既存製品の機能強化を図っている。ユーザー企業としてもまずはそうしたものを個別に使うのが、AIエージェント活用の取っ掛かりになるだろう。
そこから、企業がAIエージェントによって業務全体で効果を出すためにマルチベンダーのマルチエージェントをオーケストレートするプラットフォームの必要性が出てくる。このプラットフォームについては業務・業種アプリケーションベンダーだけでなく、インテグレーションに強みを持つITサービスベンダー、そしてハイパースケーラーなどの間で主導権争いが繰り広げられることになるだろう。
一方で、筆者が注目しているのは、先述したパーソナルエージェントが上記のプラットフォームとどのような関係になるかだ。これは企業としてAIエージェントをどう活用するか、さらにどうガバナンスするかの問題でもある。「パーソナルエージェントを起点にすれば、全体としての管理が難しくなる」との見方もある。
現時点では、企業内で使うパーソナルエージェントの存在は明確になっていない。また、マルチベンダーのマルチエージェントをオーケストレートするプラットフォームは各社が打ち出しているが、説明を聞く限りでは内容に大差はない。
従って、企業はそうした動向を見据えた上でAIエージェントの活用を着実に広げればいいだろう。ただ、だからと言って様子見は禁物だ。まずは自社にとって効果が上がりそうな領域から積極的に使っていくべきだ。なぜならば、AIエージェントは学習効果によって威力を発揮するからだ。ひいてはそれが企業競争力に直結する。
経営トップにも一言申し上げたい。AIエージェントの活用を「経営の大改革」として、自らが陣頭指揮を執って進めるべきだ。なぜ経営の大改革か。それぞれの業務だけでなく、組織の在り方や人手不足への対応、従業員のスキル向上、ひいては自身の存在にも関わる改革だからだ。焦る必要はないが、今から動き出すべきだと強く訴えておきたい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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