質問が相手の記憶をよみがえらせ、考えていることを整理する効果があることが分かりましたが、実際にはどのように質問をすればよいのでしょう。
相手から問題点を聞き出すテクニックとして、限定質問話法と拡大質問話法の2つの質問話法があります。非常にシンプルな手法なので、ちょっとしたコツを理解すれば少しの練習で誰にでも使えるようになります。
○限定質問話法
限定質問話法は相手の答えを限定し会話の幅を狭めるときに使う方法です。相手は「はい」「いいえ」などで答えられるような質問を投げ掛けます。
例えば、新商品についての意見をユーザーから聞き出したいときに、次のような質問をしたとします。
この商品について何かご意見がありませんか? ──A
このような質問の場合、ユーザーは「特にありません」のように、はっきりした回答をしないことが多いのではないでしょうか。このとき、ユーザーは本当に何も意見がないのでしょうか?
質問を変えてみましょう。
あなたは次回もその商品を購入しますか? ──B
この質問の場合、ユーザーは「ええ、買うと思います」なり「いや、次は買わないと思う」など、はっきりとした意思を伝えてくれる確率を高めることが可能です。
このケースBが限定質問話法による質問の例です。これによりユーザーは商品に対して好意的かどうかの判断がつきます。同じく「あなたはこの商品をほかの人にも勧めますか?」のような質問でもユーザーが好意的かどうか判断できます。
○拡大質問話法
拡大質問話法は相手に自由度を持たせて、会話の幅を広げたり深さを深めたりするときに使う質問方法です。限定質問によって「イエス」なり「ノー」と答えたとき、限定質問の内容をキーにして相手に自分なりの考えを述べてもらう場合に利用します。
先ほどの例では次のような展開となります。
あなたは次回もその商品を購入しますか?──限定質問話法
ユーザーが「ええ、買うと思います」と商品に好意的である場合、
次回もこの製品を購入するのは、どんな点が良かったからですか?──C
というように、相手がこの商品について好意的であるとしたら、どの点が気に入っているのかなど、より深い(具体的な)内容を引き出すために利用します。
この拡大質問Cに対してユーザーは、「商品のパッケージに高級感がある」など、今度はより具体的に気に入っているポイントを話てくれるはずです。このように、限定質問→拡大質問と質問の順番を意識的にコントロールすることで、得られる結果が大きく変わることが分かります。
最初の質問である「この商品について何かご意見がありませんか?」も拡大質問ですが、この質問を初めに投げ掛けたとしてもユーザーはこの商品のパッケージが気に入っていることには気が付きませんでした。
限定質問話法は相手の口が重く、なかなか会話に加わってきてくれないようなときに利用することで、会話の突破口にすることができます。よく日本人は「今日は良い天気ですね」など会話の初めに天気の話をするといわれます。これも相手に「ええ、良い天気ですね」との答えを期待していて、いわば相手が簡単に答えられるような質問で、その後の会話をスムーズにしたいという深層心理が働いているのではないでしょうか。拡大質問話法と比べると便利な限定質問話法ですが、あまり多用し過ぎないような注意が必要です。
限定質問話法は相手に「イエス」または「ノー」で答えを求めますので、多用し過ぎると、質問を受ける側が尋問を受けているような精神的な圧迫感を感じてしまうこともあります。特に上司から部下、または顧客に対して使うときには注意しましょう。
また、問題発見を目的とするならば、“話す:聞く”の比率は“1:9”くらいのつもりで、聞き役に徹するとよいでしょう。そのとき、自らが話す1割は、限定質問話法と拡大質問話法の質問がそのほとんどを占めていることでしょう。
ヒアリングスキルを伸ばすトレーニングとして、次のような方法があります。
1.特定の話題を決めて質問を作る
例えば先ほどの、新商品についてのユーザーの意見を聞き出す質問など
あなたは次回もその商品を購入しますか?
この商品のどのような点が気に入りましたか?
などなど。実際にやってみると意外に作れないもので、慣れないうちは5分で5つ作れれば多い方だと思います。自分の業務に関連した話題で行ってみるとよいでしょう。
2.書き出した質問を分類する
書き出した質問を限定質問話法と拡大質問話法に分類します。
あなたは次回もその商品を購入しますか? → 限定
この商品のどのような点が気に入りましたか? → 拡大
3.限定=拡大のペア質問を作る
限定質問話法の質問には、その後につないで質問する拡大質問話法を作成します。
あなたは次回もその商品を購入しますか? → 限定
→ 次回もこの製品を購入するのは、どんな点が良かったからですか?
拡大質問話法だった質問には、その質問に答えやすくする限定質問話法の質問を作成します。
この商品のどのような点が気に入りましたか? → 拡大
→ 他社競合商品の○○と比較して、操作性は優れていますか?
このようなトレーニングを行うことで、会話の中で自然と限定質問、拡大質問を組み合わせながら、相手の記憶をよみがえらせ、考えていることを整理することができるようになるでしょう。
活性化した脳から発せられるメッセージ(情報)は、コミュニケーションの基本である聞くことに大いに役立ちます。質問力を高めることが、ソリューションを提供できない“負の連鎖”を断ち切る第一歩となります。
▼著者名 秋池 治(あきいけ おさむ)
株式会社リアルナレッジ 代表取締役
横浜国立大学卒。メーカー系情報システム会社にてシステム企画とシステム開発に従事。その後、ユーザー系企業でデジタルビジネスの企画および社内改革に取り組む。2003年に数名の仲間と共に株式会社リアルナレッジを設立、業務プロセスの可視化やプロセスの最適化により、経験や勘に依存せず業務を遂行するためのパフォーマンスサポートを提供している。
著書に「情報エキスパート」(アプライドナレッジ刊)がある。
e-mail:akiike@realknowledge.co.jp
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